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自惚れた温度

微かに残る温度。

驚いた。驚いた。
ドクドクと脈打つ心臓の鼓動が耳に煩くまとわりつく。
触れられた下唇から火が出る様に、感情が高振り、止まらない。どうしよう。止まらない。
体を擦り抜ける風が逆に心地好くて、足を更に速めてみた。

隊長。
呼ばれた音が男にしては何処かせっぱ詰まったかのような声で。
先程のビジョンは鮮明に瞼の裏へと深く刻まれる。あの時、指令が無かったら。そう思い、例え様の無いもしもの空想に神経を任せた。
もしもあの時指令(邪魔)が入らなければ。浦原はどうしただろうか?
浦原に限らず自分は?
二人は?

どうしよう。どうしよう。
ドキドキのし過ぎで何時か窒息死してしまいそうだ!

「隊長」

リアルに呼び止められて、些か言葉が裏返る。(なんて様だよ…俺)
恥ずかしくて浦原の顔が見れない。
うつ向き加減の視界に入ってきた浦原の指先が何処かを指す。
ふと、その矛先を見れば。
荒地に佇む小さな陰になんらかの違和感と疑問が浮かんだ。

そこに散らばった虚の霊圧に引き寄せられる様に、二人して地上へと降り立つ。
佇む小さな陰の正体。まだ成長しきれていない少女。

「大丈夫か?」

何か、見た?
優しく問いかければ、その震える小さな眼にいっぱいの涙が浮かんだ。その間震え出して止まらない肩を引き寄せてニコリと笑う。
大丈夫だよ。もう、大丈夫。
呟くと、少女はニコリと笑い返してくれた。その事に少しほっとしてしまった事がそもそもの間違いだったのだ。


恋を、覚えたね?

「小僧」


隊長!
浦原の叫ぶ声と同時に、目の前で広がる虚の霊圧。少女の変貌。
気が付けば目の前に浦原の背中が広がっていた。
暫く、何が起きたのか理解出来ない頭にダメージを与えた真っ赤な色彩に目を奪われる。

「浦…原っ」
「下がって!」

俺をかばう様に、浦原の右手が後ろへと周り。左手に掲げられた彼の愛刀は殺気を放っていた。

迂濶だった。
かいま見れた浦原の横顔。額から血を流して、その血液が左目を覆い隠していた。

「駄目だっ浦原!」
「哭け。紅姫っ」

途端、砕けた周囲に。ケタケタと不気味に笑い出した虚は背中から不恰好な触手を何本も生やす。
霊圧はそれ程高くも無いが、低くも無いそれ。左目が血にまみれて開かない上に、右手は俺をかばう為に後ろ。
浦原の状況はかなり不利だ。
俺、守られてばかりだ。
そう思ったら居ても立ってもいられなくて。

「斬月!」

卍解をし、瞬歩で虚の目の前へと進み出た。浦原が叫ぶ。虚は笑った。
恋をしたね。覚えたね。その言葉を連呼しながら、伸びた触手は一気に自分へとその矛先を露にする。

ばしゅ、ばしゅっ
気色の悪い音を奏でながら、斬り落とされた触手に見向きもせずに虚の額目がけて剣を突き刺した。
超音波の様な叫び声を上げた虚は見事なまでに散り、これにてジ・エンド。
最後に叫びと共に鼓膜を揺らした虚の言葉が胸へと深く突き刺さったのをどこか他人事の様に感じながら。

(不毛な恋を覚えたね?)


「浦原っ」
「…隊長、」

なんで俺をかばったんだ馬鹿!
怒鳴りつけて、瞼の上から流れ落ちる血を袖でゆっくり拭った。
鮮血の朱に涙が出そうだった。

違う。馬鹿は俺だ。
他に怪我は無いかと見ている内に、自分の中で何かが責め立てる。
現を抜かした失態がこれならば。なんて浅はかな行動を取ってしまったのだろうと。平気だと呟いた浦原を、力いっぱい抱き締めたい衝動を堪えて。
内心で地壇々を踏み付けた。

下唇に残る温度に自惚れた。その代償がこれならば。(もう、この想いに歯止めが付かなくなる前にいっその事…)

下唇を噛み絞めて、心の中で決心する。












自惚れた温度





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