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勝手知ったるなんとやら〜、キッチンに立ちながら自作の歌を口ずさむ。
一口サイズに切ったタラを耐熱皿にしきつめてその上から日本酒を少しだけ垂らして加熱。加熱して酒のうま味を吸収したほっこりタラを解しながら小さな骨を取り出していく。本来なら形が残ったままのタラを火にかけるのだが相手は病人なので細かく解す。
そのまま解し汁に醤油で味を調えて米と共に加熱。米が汁によって炊けてきたら、とき卵を弧を描くようにサササーと入れて軽く煮て出来上がり。
鍋の蓋を開ければ白い湯気と共にほんのり甘いお酒とお米の炊けた良い香りが舞い上がる。スプーンで少しだけほぐし汁をすくって味見、卵の柔らかい甘みとタラの香ばしい味、そしてお酒の苦味が絶妙なバランスで交わって舌先を甘く痺れさせる。うん、美味い。自画自賛しつつ前掛けエプロンを取って二階へ上がった。
15と数字が書かれただけのえらくシンプルな表札が掛かっているドアをノックもなしに開く。

「あ、な、た〜ご飯ですよ〜…なーんて」

新妻ごっこ、と頭の悪い単語が脳内へ浮かび茶化しながら入るも当の本人はベッドの上、真っ赤な頬をしたまま寝苦しそうに息を荒げている。
熱が上がったか?
浦原が近付くも起きる気配のない一護は眉間に馴染みの皺をきつく寄せてはいても普段の彼とは少しだけ違ってみえる。いつだって勝気に上がる眉が垂れ下がっている。唇は乾いて所々皮が剥がれていて見た目にも痛そう。ハア、吐き出す吐息だってきっと熱を含んでいる。
ベッド脇に座って一護の顔を覗きこみながら額へと手を這わせた。
あつ…。
暖房が適度に効いている室内、冷たい浦原の手へと瞬時に熱を移さんとする、どうにも…健康優良児が引く風邪は厄介な物らしい。

「…ら、はら…?」
「おはよ。ご飯食べれそう?水飲む?」

小さく息を吐きながら目を覚ました一護の瞳は涙で潤んでいるからとても甘い。少しだけ高鳴った胸を誤魔化す為、吐き出す言葉は少しだけぶっきらぼう。

「み、ず…」

ベッド脇の勉強机に置かれていた某コーヒーショップのタンブラーを手に取って中身を確認。水ではなくて白湯らしいそれは少しだけ温くなっていたが、あの可愛らしい妹の気遣いが分かってとても暖かいものに感じられた。

「ゆっくり飲んで。起きれる?」
「ん…」

もそりと起き上がろうとした一護の腰へ腕を回して起こすのを手伝う。背中に枕を敷き、少しだけ上体を起こしてベッドの縁に凭れかかる体制にしてあげる。
少しだけ動くにもこのザマか、眩暈と吐き気を起こしかけた体に内心で罵倒する一護に浦原がタンブラーを手渡した。
受け取る際に触れた指先が冷たくて気持ち良い。目覚めたのもこの冷たい手が気持ち良いと思ったから、火照って熱を吐き出す事の出来ない体が欲した心地の良い冷たさ。タンブラーから離れていく指先を目で追うのと同時に手も動いて浦原の手を掴み取った。

「なに…?」
「め…明太子スパ…?」

無意識の内に掴んでいた冷たい手、見合った金色も同じく冷たい色、急に恥かしさが頭に浮かび咄嗟に出た言葉に浦原は苦笑しながら一護の額に、デコピンした。

「いたっ」
「バカじゃない?病人には食べさせません〜。待ってて、持ってきますから」

再び離れていく手は優しく一護の指を解き、額に触れてから離れていく。なんだか心に寂しいって感情を与えられる。ウイルスは体では飽き足らずに心までも犯してしまうらしい。部屋から出ていく浦原の背中を見ながらフウと小さく息を吐き出して枕に深く身を沈めた。

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