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どこまでも馬鹿な話だ


俺。絶対救いようの無い、馬鹿だ!!




「ちょ、待て…っ」


こんなに学ばない自分を殺したくなったのは初めてだ。
背中から伝わる床の冷たさより、
両手首を束縛する紐の痛さより、
目の前に迫る無表情な顔より、
今置かれている自分の最悪な状態よりも、この状態に持っていってしまった己の浅はかさを罵る。


「しゅっ、…てめっ」
「なあ。黒崎隊長」




目を通して欲しい書類がある。と言われ、ノコノコと付いて行ったのが悪かった。
東の古倉庫なんて、今は誰も使わない&人通りの悪い、変態共が事を起こすのに最も敵している所じゃないか!
(馬鹿馬鹿っ俺の、馬鹿っ)



「やっ!」
「感じる?」



ぺろり。と首筋を舐めた相手の舌の熱さに目眩がして、無意識に体が震え、ついでに情けない事この上無い声を出してしまう。それを見て、頬に卑猥な刺青をした顔がにぃ。って笑った。



「んなわけっねー!!!」
「暴れなさんな。」
「ちょっ、おいっ!放せよ!」
「いや。」
「しゅう、へいっ」
「かわいい。けど、駄目です。」



だって、ほどいたら逃げるでしょう?
だなんて。当たり前だっ
この状況を打覇したい。なんとしてでも抜け出したいが。
如何せん、両手首は縛られてるは。腰の上には修兵が乗っているはで…。
蹴りひとつかませやしない。
最早お手上げ状態だ。




「てめ、殺すっ」
「終わってからね。」
「やめっ!触んなっ」
「…どうして?」
「気持ち悪いっだろーがっ」
「ふうん。」



兎に角叫んだ。
体の自由が効かない分、感情の全てを言葉にして吐き出せば。
ぴたりと体中をま探る手を止め、修兵は無表情で呟く。



「じゃあ、感じさせて上げますよ。俺、結構テクニシャンだから。」
「っ!」



意地の悪い笑みと共に、はだけた前から入れられる冷えた掌は胸の飾りに触れた。
ぞわり。言い知れない悪感が背中から首裏にかけて広がる。



「やっ!だっ、」
「おやおや。気持ち悪いと言いながら、結構感じてんじゃないですか。」
「や、めっ…しゅっ!!」
「止めないって言ってんじゃん。」



冷たい言葉は何故か恐怖だけを誘う。
ま探る掌から何も伝わらない。
自分の情けなさに反吐が出る。涙が出る。




『隊長』





誰かに呼ばれた様な気がした。

それは俺の最も嫌いなヤツの声で。
こんな時に限ってなんでお前は居ないんだよっ
と、責任転換。



俺の体に下心を持って触れてくる連中から俺を救い出して、毎度毎度、呆れた様に説教垂れてくる煩いヤツ。



『鈍感過ぎますよ。』



溜め息と一緒に出るセリフは何度聞いた事だろう?



なあ、浦原。
俺がそんなに鈍感だと思うか?
腰に回る腕を、俺が何の疑問も無く流すと思うか?
顔に触れてくる掌を、俺が許すと思うか?




『全く。あぶなっかしいお人だ』



なあ、どれもこれも。
お前が全ての手から俺を守ってくれたじゃないか。
全てのいやらしい視線から俺を守ってくれたじゃないか。




『隊長、』



今になってやっと後悔してるよ。
お前が俺を守ってくれるのが段々心地良くなってきて、お前の呆れた様な顔を見る度になんだか変な優越感を感じて。
お前は俺の物なんだと勝手に思ってしまって。





「う、ら…はらっ」
「っ!」




助けて。





「その汚い手を退けなさい。」






一瞬、幻聴が聞こえたと思った。







「ぐあっ」
「っ、」




それは一瞬の出来事。
組み敷かれた体の上にいた修兵の体が、強い衝撃を受け横に吹っ飛んでいったのを、瞳がスローモーションの様に捉えた。




「う……ら、」
「……」



開かれた扉から差し込む光の中、浦原は立っていた。
逆光で顔の表情が掴めない。
俺を見下ろしているのに、浦原からは一言もはっせられない。



「…大丈夫ですか?」
「あ…、う、」
「阿近さん。後はよろしく頼みます。」



言葉を遮られ、体を起こされる。
浦原に名前を呼ばれて、知らない顔の男が扉の角から出て来て小さく会釈をした。



無言で浦原は俺の腕を掴み、部屋を出る。



(何か言ってくれよ。浦原……)




見上げた横顔は何時に増して怒りを含んでいるようだった。









はらり。
ほどかれた赤い紐。神経質な指は思っていた以上に暖かで、何故かそれにホッと胸を撫で下ろした。
(浦原は未だに無言なのに、)



「浦…原。」
「…」
「う、…らはら。」
「…。」



何度呼びかけても、浦原は黙々と乱れた着物を直しているだけで。
それが何故かまた胸を絞めつけ、無表情な浦原に怒りさえ沸き上がってきた。


「浦原!」
「…なに?」
「っ、」



聞いた事の無い冷たい声に肩がびくりと震える。



「ごめ…、」
「なにが。」
「…あの。…ありがとう」
「……隊長、」



あ。呼んでくれた。
名前では無いけれど、何時もの様な呆れた声で呼ばれて、再び胸から何か大きな塊が溢れ落ちる。

まったく。忙しい感情達だ。



「もっとこう、危機感を…、」
「浦原?」



何時もの調子で説教をし始める浦原の口が止まる。
と、浦原の表情が一瞬歪み、それから壁へと押さえ付けられた。
背中が、痛んだ。



「っ!」
「ねえ。…お遊びもここまでにしといて貰えません?」
「はっ、…な、に?」
「それとも何?アタシをからかってるの?」「うら…、」
「ああ、違うか。君はアタシが思っていた以上にとんだ淫乱みたいだ。」
「なっ、」



淡々と浦原は冷たい声で冷たく嘲笑い、冷たい言葉を投げつける。



「本当は男に犯されたいって思ってんでしょ?」
「ち…がっ」
「何が違うの?こんな所にいやらしい痕なんか残して。ああ、違うか。なに?もう経験済み?」
「違うっ!」
「嘘おっしゃい。その小綺麗で可愛い顔で何人、タブらかしてきたの?」
「やめろっ」



汚い言葉はナイフの様に鋭く、胸の奥までずぶり、と突き刺さる。




ああ、痛、いよ…。




「ごめんなさいね。隊長?今日もアタシは貴方の趣味に要らぬ口を挟んだみたいだ、」
「っ!!!」




ばしん。












(軽い音が鳴り響いた。)



胸は、ボロボロだ。





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