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恋に変態



試験管にビーカー。
ぶくり、ぶくり。気味の悪い液体。
薬品臭い部屋。




「ああ、落ち着くっ」
「……んな力説しなくても、」



目の前のへんた……局長は笑いながら、先週回されてきたホルマリン浸け虚の触手を撫で回していた。


ああ、きっとこれを俗に言う変態って言うんだろう。




「久しぶりのオフになあにをやっとるんですか…。」
「久しぶりのオフだから此所に来てるんです!」
「だからんな力説すんなっつってんだろーが。この変態」



変態って言う人が変態なんですぅ。
だなんて、アンタは子供か?と言いたくなるが。この人を見ていると、変態と天才と馬鹿は紙一重なんだと改めて納得する。
いやはや。昔の爺共は良い言葉を作るものだ。


瞳を輝かせながらビーカーを眺め、書類に目を通し、何やらブツクサ言いながら、白紙に数字を並べ始めた男を見て。



本当に研究好きだなぁ。
って寧ろ感心した。



昔の仕事振りより、こちらの方が天職らしい。
かつて鬼の隊長と呼ばれ、皆から恐怖の対象として見られていた男が実は、子供顔負けの笑顔を見せるとは思いもしないだろう。


研究の時だけ輝きやがって。


無表情だと思われがちなこの人だけど。
結構、感情が表に出易い方だと俺は思う。


ただ皆、ありのままのこの人を知らないだけなんだろうな。
(否、どちらかと言うと関わりたくないだけなんだろうけども。)




「そういや、黒崎隊長専用の番犬って言われてましたよアンタ。知ってました?」
「あ?あー…、ま。良いんじゃない?実際番犬みたいなもんだし。」


興味なさげに答えながらにも、数字を書く手を休ます事は無い。
なんだ。嫌な顔すると思ったのに。



「へえ。結構入り込んでると思ったんすけどねぇ」
「なにに?」
「は?あの子供に。」
「まさか」



はっ。
と乾いた笑いを投げ返された。
この男が総隊長殿の脅迫まがいな引き抜きにより、就いた十三番隊。
1、2ヶ月ですぐ根を上げて戻ってくると思っていたのに。
あの子供の番犬に成って早半年が過ぎようとしていた。



まさか半年続くなんて。
興味を持ったか、アレに惚れたかのどちらかと思っていたのに。


(ちくしょう。賭けに負けてしまったじゃねーか。)



面倒事を嫌う男だ。
2週間もすれば戻ってくると踏んで、賭けをした挙げ句に負けて研究室の奴らにその夜の宴の代金を全額奢る羽目になったのだ。こちらは。



「まさか。ってね…アンタ、」
「惚れませんよ、まだまだガキじゃない。しかも男!」
「いや……誰も惚れたかってまでは聞いて無いんすけど。」



おや。と思った。



「……」
「…え。」
「…惚れません。」



おおっ!珍しい!つか、寧ろ奇跡!!??
コイツ、自分でまさかの墓穴掘ったよ!!



「ただね。苛つくんですよ、あの子供を見ていると。」
「は?なんで」
「鈍感過ぎてねぇ。」



だってね。普通気付くだろ?
腰とかに手を回しながら書類のチェックする馬鹿どこに居るってんだよ?気付けよ。それがお前を狙ってるって事に。気付けよ!何普通に接してんだよ?どう考えても疑問だろうが。顔色が悪いんじゃない?って顔ベタベタ触られた挙げ句に熱計りたいから目瞑って。って言われて素直に目を閉じるなよ!馬鹿だろアイツ?下心に気付けよ、もう少しで接吻されそうになるだろうがっ。



「……言い難いけど。キャラ壊れてますよ?」
「疲れたんです!」
「成程、…そりゃあかなりの鈍感っ子なんすね」
「…はあ。」



一気にまくしたて、満足したのか。
疲れたと吐いて、一緒に溜め息をも吐き出しやがった。
局長が溜め息を吐いたのを見るのは貴重だ。
それほどまでに難解なんだろうな。
とも考えるが。
それと同時に、ある寒気のする予感がひとつ。




「あ。そう言えば局長。」
「んー?」
「先程黒崎隊長を見ましたけどね。九番隊とこの副官と東の古倉庫の中に消えm」



言い終らないうちに、目の前の男が居なくなっていた。


後に残ったビーカーと俺。
メモ用紙が彼の生み出した風により、パラパラとページが捲れている。




「おーい。やっぱり惚れてんじゃねーか。」



見事な瞬歩で出ていった局長。
なんだか面白い事になりそうだ。




「これは、行くっきゃねーだろ?」










(さあ。これからが本番。ショータイムでございます!)



あの人はきっと、恋なんて知らない。





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