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なんで勝手に消えたくせに、なんで戻ってきた。なんで、なんでなんで。
悲痛な声だと浦原は思った。携帯端末の画面上に記された無機質な文字の羅列がこうも痛々しい。なんで、何故、why、疑問を投げかける言葉の中で一番強い言葉だと思う。思うからこそ浦原の心臓はダメージを受けていた。

「本当は、向こうに着いてからキミに連絡入れようと思ってた」

対峙する琥珀色は揺るぐ事なく浦原を見つめる。この琥珀色から目を背けたい衝動に駆られたが寸での所でグっと堪えた。ここで背けてしまえばもう後戻りは出来ないと感じたから。
琥珀色を見つめながらゆっくり吐き出した言葉の何とも言い訳臭い台詞に我ながら笑ってしまう。言葉にしたらとても胡散臭い、こういう時にお得意の口八丁が出て来ないのは彼の琥珀色がとても強いから、そして彼の存在が浦原の中で大事な人へと変わっていった証でもあるから。真実を語るのはとても難しい。況して、自身の気持ちを伝えるのもとても難しい。

「ああ違う…違うな…、」

浦原は首を横に振りながら言い訳臭くなった言葉を掻き消す。

「本当は怖かったんです。向こうに戻ると決めた事をキミに伝えるのがとても怖かった」

片足を行儀悪くソファへあげ、体ごと一護へ向き直る様に体制を変えた。
少しだけ縮まった距離に一護の琥珀色が揺れる。怯えた様に揺れた琥珀色を見てフと小さく笑う。

「自分の気持ちを認めてしまうのも怖かった」

掠れた声が寂しげに目前で揺れる。初めて見た時には冷たいと思っていた彼の金色、今ではとても綺麗で儚くて淡い月の色に酷似しているから優しいとさえ思えてしまう程。それくらい、一護の心臓を彼の色彩が鷲掴みにする。
瞳の金色が、声の色が、温度が、彼を彩る全てが一護の目を耳を指を体を心を全て包み込んでしまう。性質の悪い束縛だと思ってしまった。

「認めてしまえば簡単な事なのに、でも…簡単じゃないからきっと認めたくなかった。臆病者なんス」

つらつら連ねる言葉のどれもがピンと来ないまま一護の耳へと入り、右から左へと流れていってしまう。何を言うつもりだよお前、コクリと飲み込んだ息に混ざって一番大事な言葉を共に飲み込んでしまった気がする。
"まて"
咄嗟に出した右手は浦原の目前、淡い色の金色を肌色が隠してしまう。
口の動きだけて一護の声を読む浦原は「待て」と放たれた事に少なからず驚いただろう。驚きを金色へ反映させて一護を見た。

"お前、何言うつもりだよ?"

「なにって…キミを好きって事…」

吐き出した言葉にくらりと眩暈ひとつ。一護の眉間に寄った皺は一瞬解かれて再びきつく刻まれた。

"勘違いだ"

「…何が?」

一息ついて口を動かした。若干震えた唇を彼は言葉と共に読んだだろうか。直ぐに吐き出された浦原の言葉に眉を顰める。

"友達の好きなら分かる"

「違います」

"違わない"

「恋愛の好きです」

"勘違いだ"

一字ずつゆっくり口を動かしてはっきり告げる音の無い声は強く拒否を示した。しかもだ、浦原の気持ちを真っ向から拒否している。これにはいささかムっときて唇を尖らせながら浦原も眉間に皺を寄せてみせた。

「何が勘違い?認めてしまえばこうも簡単だった、キミが好き。キミの声が消えたと電話を貰った時、心臓が止まるかと思った。息が苦しくなった、再会して切なかった。キミを抱き締めた。とても嬉しかった。これのどこが勘違い?」

そう、この気持ちは誰にも否定は出来ない確かな物。
浦原自身、僅かに芽吹いた恋心に恐れを抱き摘み捨てるつもりでいたが捨てきれずにいた確かな物。それを意中の相手に勘違いだと一言だけで否定されてしまえばどうする事も出来ない。まだ、振られてしまうなら話が分かるが、浦原は諦めるつもりなんて毛程も無い。
強く光らせた眼差しに"好き"の気持ちを込めて一護を見る。
甘く蕩けだした琥珀色、ミルキーブラウンの瞳が甘くて、心臓をトクントクンと動かす。ホラ、アタシはこんなにもキミが好き。言葉が届かないなら瞳で、そう思って一護を見るも、一護はフと表情を変えて悲しげに笑いながら口を動かす。
"そりゃあ、罪悪感だ"
悲しげに揺らいだ琥珀色が、瞬く間に諦めの色を乗せて優しく笑む。
紡がれた言葉のなんと辛辣な事。音無き色で紡がれる言葉が弾丸となって浦原の心臓を撃ち抜いた。

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