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143!!


えー!なんで着替えたのおねえちゃん!
そうっと忍び足でなるべく音を立てずに玄関先へ向かったと言うのに、こういう時だけ勘の働く妹は仁王立ちで腰に手をあてながら大きな声で非難した。

「や…だって、似合わないから…」

Chocolate<3<3

カレンダーを目にする度、ここまでドキドキしたのは一度たりともない。馬鹿みたいにソワソワして、授業中も上の空で虚退治中でも考えは別のところに浮いていたから「たるんどるぞ!」とルキアからお咎めを暫し貰い続けていた。14の数字が刻一刻と近付いてくる度に変にドギマギするし、変にドキドキしてしまう。意を決して聞いたお菓子の作り方に勘の鋭い妹達は発狂した。
お姉ちゃんが!とうとう!神様ありがとう!
どんな男?ブサ男だったら討つ。義理チョコでも、討つ。
一人は床に膝をついて懺悔のポーズ、もう一方は本気とも取れる目でにっこり笑う始末だったから一護は頭を抱えて聞くんじゃなかったと後悔した。
黒崎家では母親が居らず、医師で忙しい父親に代わって家事は三人姉妹が分担して行っている。料理全般は遊子が、洗濯は夏梨が、そして掃除機は一護と大雑把に分担こそしているが、食事の後は皆で皿洗いするし、トイレも気がつけば掃除をこまめに行っている為、各自かかる負担は少ない。
幼き頃から料理する事を趣味としていた遊子が挙手しながら「今日から私の事、先生って呼んで良いよ!」と当の本人よりもやる気に満ち溢れて幾分か楽し気だったので素直に感謝した。
頼むから、あまり聞いてくれるなよ。心中で苦笑しながら二人が広げたお菓子の本をアレでもない、コレでもないと迷いに迷って決めたのはブランデーチョコボール。
きっと甘いのは極端に苦手だろう。脳内に浮かべた彼の人はおやつに出された菓子類を全て一護に与えてくれていたからだ。
"好きでしょ?甘いの。良いっスよ、お食べ"
フと少しだけ意地悪気味に笑いながら皿を寄越してくれる。テッサイが用意するお菓子の類は全て彼のお手製で、甘党を自負している一護の別腹と言う名の胃袋を大変満足させてくれる。
あ…おい、テッサイさんに習えばよかったんじゃねーの?
ふと気付くが、彼の城はあの商店にあるからサプライズが出来ない。これでよかったのだと自分を納得させれば妹から「…大人の人と付き合ってるの?」と少しだけ心配気に声を掛けられた。

「べ、別に!付き合ってるとかじゃねーって!ただ…いつも、世話になってっからさ…お、お礼にって…」

ひとつは嘘で後は全て本当の事。嘘が下手糞な一護のどもり様を見て、妹達二人は大人と付き合っているんだなと心中で結論つけて黙った。妹達の気遣いに姉は気付かないまま顔を真っ赤にし、項垂れながら本を見る。振りをした。

***

"お得意さんからチケット貰ったんですけどね、一緒に行きます?"
ベタなセリフから決まった14日の外出。まさにお決まりのセリフがお決まりのパターンで出てくるとは思いもしなかった一護は目を点にしながら浦原に向かって「今、なんつった?」と聞き返していた。それくらい、男には不釣合いなセリフだった。

「いえね、映画のチケット二枚貰ったんスよ。捨ててしまうのも悪い気がしてねえ。どうです?観に行きませんか?」
「…あんたが、映画?」

ヒラリと見せびらかすように指先にはさまれたチケットにはご丁寧にも「優待ペアチケット」と記されている。浦原と二人で外出と言うよりも、あの面倒臭がりで出不精の浦原が街まで赴き映画館に居ると言う事がどうしても想像しにくい。想像する事だけなら出来るが、映画館特有のシートに腰かけて片手にはポップコーン、もう片方にはコカコーラを置いて画面いっぱいに繰り広げられるフィクション物の映像を観ている光景はどっからどう見ても異様だった。想像だけで頭痛くなっちまうな、失礼な事を考えながら目を点にする一護に向かってヘラリと浦原は笑ってみせる。

「アタシだって映画のひとつやふたつ、観ますよ〜」
「いや、嘘吐くなよ…興味ねーだろう?んな…恋愛物なんて…」

世間はバレンタイン一色に染まった二月初め、唐突に切り出してきたかと思えばなんだそれどんな冗談だよ、と一護は尚も食ってかかるから浦原はフムと口元に扇子を持ち出す。

「まあ、映画なんてのは口実なんスけどね。ちょうどこの日に外出する予定でして。夕方辺りなら君も学校は終わってる頃でしょう?映画観てご飯食べに行きましょうよ」

尚も男には不釣合いな言葉が出てきて一護は胸に突っかかる感じを覚えた。
あふれ出さんばかりの幼いプライドに混ざった恋、厄介なソレを彼の前で無様に爆発させてからと言う物、互いに前と変わらない日常を送っていた手前、俗に言われるデートのお誘いなるものを男から貰うのは初めてに等しい一護は漸くこれが恋人同士らしい普通の事と理解してボワっと勢い良く顔を真っ赤に染めた。
耳も首元も全て真っ赤にした一護を見てオヤオヤと内心では驚く。初心だ初心だと思っていた彼女は、こちらが想像する以上に初心らしい。まさかここまで照れてくれるとは思ってもいなかった浦原は途端に悪戯心が芽生えて「デートしませんか?」と追い討ちをかけて一護の琥珀色を甘く蕩けさせた。
新宿まで出るなら…とやっと口を開いた一護の声はとてもか細く、浦原だけにしか響かない程の音だった。それに再び気を良くして、浦原はにっこり微笑んでみせた。

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