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時は2月初め、子供に扮した虚に一瞬だが同情してしまった。何人も何人も子供を犠牲にして喰らいぶくぶくに太った醜い、地獄落ち確実な虚だったにも関わらず、子供の皮を被って子供に化けた虚に一瞬だが心を揺さぶられてしまった。一瞬の油断、その隙間を狙い虚の刃が右肩から左のわき腹にかけて一護へと牙を向け皮膚と肉を抉った。あの時の痛みは忘れないし、あの時に見た走馬灯にも似た映像もしかと脳内に焼き付けている。ルキアの応戦もあってなんとか地獄へと落としたが、一護は重症を負い、三日間昏々と眠る羽目になった。
目が覚めればそこは見慣れぬ天井だった。昔ながらの平屋、畳みの香りが濃く、布団越しからでもそれが分かるくらいには肌に馴染まぬ香りが最初に一護を包み込んだ。
ここ、どこだ。朦朧とするクリアではない視界を無理に動かせばズキンと胸辺りと肩、そして腹部が痛んだ為にヒュっと息を飲んでアっ、と小さく唸った。

「まだ動かない方が良い」

最早二度も味わいたくない想像を絶する痛みに眉を顰めれば真横から声が響く。とても冷たく、とても低い、聞いただけでも怒りを含んでいるのだと分かる程の声がすんなりと耳へ入り込んでその奥深くにある心へと突き刺さって違う痛みを一護へと味わわせた。
机を背もたれに使う男は片足を折り曲げた状態で座っている。上げた片足を肘付きの変わりに使っては行儀悪くも煙管を吹かしながら一護を見ていた。

「浦、原…さん」
「三日。寝続けてました。」

面白くなさそうに話しをまとめようとその口から流れる言葉はやや冷たい。

「…その、」
「ご家族の方は朽木さんに任せてありますどうぞご心配無く」

フー、か細く吐き出された紫煙がふわりふわりと一護の目前まで泳いできてはフっと消えて無くなった。再び、浦原の冷たい金色と目が合う。いかなる感情をも読ませない冷たい瞳に耐え切れず目を逸らした。

「ごめん…あたし、」
「傷、痛みも跡も残しておきました」

きゅっと布団を握り締めた拳に力が入り込む。冷たい声に冷たい言葉、意味深な言葉に心がわななと震えるのが自分でも分かった。弱い、と思われた。女のクセに無茶をと、思われたに違いない。心がざわわと勝手に暴れだす。痛い…すごく、抉られたであろう傷跡なんかよりも数倍、数百倍も痛んだ事に涙が溢れそうになったがグっと下唇を噛み締めて耐えた。
ここで泣いてしまえばお終いだ。
心が勝手に叫ぶ。

「……治ったら、帰るから…」
「後三日は必要っス」
「ごめん…それまで…いさせて、下さい…」

気を抜いてしまえば涙が零れてしまう。吐き出した声が震えてしまってはもうダメだった。心が泣いている。ダメだ、弱いと思われては駄目だ。泣いてはダメだ、これだから女はと思われるのはダメだ。彼にだけは…女として扱われたくない。
叫び続けた心が確信に触れてふるりと唇を震わせた。
もう、浦原の顔を見る事が出来なくて静かに布団の中に潜っては強く目を閉じた。

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