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甘やかで少しだけスパイシーな香り、見た目にも甘そうだと取れるシナモンロールにたっぷりとマーガリンを塗りたくってナイフとフォークで綺麗に分けてぱくぱく食べる。それは美味しそうにぱくぱくと食べるから思わずこちらもゴクリと唾を飲み込んでしまう。一護は起き抜けにシナモンロールを平らげている目前の女性を見て唖然とした。
ポスターとブラウン管越しにしか拝んだ事のない女性が今、美しいロングヘアを後ろでみつあみしてまとめ、キャミソールとショートパンツ1枚のまさしく寝起き憮然の格好でぱくぱくと朝食を食べている。それだけでもこれは夢か?と思わせるのには充分なのに、彼女が食べているシナモンロールは今ので2つ目。コンビニで売られている小ぶりな物とは違い、ひとつでも充分な大きさのシナモンロールをぱくぱくと頬いっぱいに含んで食べる姿はなんだかハムスターみたいだ。

「"意外に良く食べるよねお姫様"」
「"だから、その呼び方やめてよ!"」

横からチャチャを入れる修兵に向かって牙を向く姿は到底スーパーモデルの顔付きではなく、食事中にチャチャを入れられて威嚇している猫の様に見えた。
モデルって…サラダしか食べないものだと思ってた。
バッシングを受けそうな気持ちを抱えたままでコーヒーを飲む。既に冷めてしまったコーヒーは先程までの渋さを消して舌先にミルクの甘さを乗せるだけ。
淹れ直してきましょうか?横から聞いてくる浦原の目を見ながら首を横に振ってありがとうと口を動かして伝える。変わらない笑顔が隣にあるのに、一護の頭の中には修兵の言葉でいっぱいで未だに最初の時の不安は拭えずに苦い面持ちで残りのコーヒーを飲み干した。

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"俺と彼女のスキャンダルが広まればバンド休止の理由が出来る"
簡単に言ってのけた彼は険しい表情の一護を見てクハっと他人事の様に笑った。

「お前、すげえ顔してんぜ?昨日の浦原さんみたい」
「いや、アタシはここまで酷くないですよ」

軽く失言を発した浦原を睨み、携帯でぽちぽちと文字を打って見せた。
"スキャンダルって?"

「題してBLEACHきってのプレイボーイ修兵とスーパーモデルネルのロマンス逃避行」

"ふざけんなよ遊びじゃねーんだぞ?"

「バカだな真剣さ。お前の失声症を世間に広めるよりは良い」

おふざけの延長線みたいな笑みから一変して真剣そのものの表情になった修兵の瞳を見て、グっと息を飲み込んだ。スタジオ入りして楽譜とにらめっこしていた真剣な瞳が目前にある。

「原因が分かったとしてもそう簡単に治るもんじゃねえだろう?お前、焦ってんだろ?」

ドキリとした。図星をさされては後ろめたさでいっぱいで、下唇を噛み締めてグっと堪える。そうだ、多少なりじれったさを感じていた。ストレス性の病気だと聞いて少なからずショックも受けた。万年健康優良児で時たま風邪を引いても3日で完治してしまう様な、病気には縁遠いと思っていた自身がストレス性の病気で声を失った事実に、一護自身が1番ショックを受けていた。
"これはね古典的なワーカーホリックの人に多く見られるんだ。自分の事は自分が1番良く分かってる、と自惚れていたら病気に足元をすくわれてしまう。だけど良いかい?良いかい一護くん。大事なのは自分を弱いと思わない事だ。病気を責めない事だ、病気になった自分を弱い者だと思わない事なんだ"
主治医でもある浮竹は厳しく言った後で柔らかく笑った。彼の言葉が今も尚、心に深く突き刺さっている。
いっそう険しくなった一護の表情を見て彼の小さい頃を思い出した修兵はフと小さく笑って浦原を見た。横に座った浦原も同じく苦い表情で不味そうにコーヒーを啜っている。

「と言うわけでお前に課せられる使命はゆっくり休む事!以上!」

パン!手を叩いて大きい音を発すれば両者揃ってビクリと肩を震わせて修兵を見た。その姿が近所の猫その物で笑ってしまう。

「浦原さんは一護の相手な、こいつ遊びに関してはマジで我が儘だぜ?気を付けろよ?」

不敵に笑んでみせた修兵を見て、浦原の緊張はどうやら解けたらしい。マグカップをテーブルに置いて足を組み直した浦原の顔には修兵以上に不敵な笑みが浮かんでいた。

「アタシね、貴方以上にプレイボーイだって言われているんですよね。遊びに関しては徹底してます。どうぞ安心して任せて下さいな」
「ホウ、さすがLA育ちは違いますな〜。一護、うんと贅沢して良いぜ、全部浦原さん持ちだ」

アハハと笑う二人の横で"彼女は納得してんのかよ"と険しい表情で打ってる最中に件の女性が寝起きの表情のままでベッドルームから出てきた。

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