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カレンダーはいつの間にかDecemberへと捲られていた。
玄関先の壁にかけられたカレンダーの文字列の上、でかでかと引き延ばされた母親の笑顔が一護を出迎える。お帰り、耳に残る声がした気がして小さい声でタダイマと呟きながら靴を脱いだ。

「お兄ちゃんおかえりなさい」
「…んー。ただいま」

後ろからぺたぺたとルームスリッパを鳴らしてやってきた幼い妹は可愛らしいフリルのエプロンを着け、レードルを持ちながら一護を出迎える。
同級生でもある浅野が一度だけこの妹の姿を見た瞬間に「幼妻!」と叫んだので玄関先で沈めた。薄い桃色の生地にふんだんに使われた白いレースが彼女に似合っている。フリル付きエプロンは一護からのクリスマスプレゼントだから彼女は何年も愛用している。
いつだって出迎えてくれる彼女からは母親の香りがするから浅野の言う所の幼妻には到底当てはまらないなと一護は考えながら妹の頭を撫でて二階へと上がった。

「あれ…元気ないね…ご飯は食べるでしょ?」
「んー…ちょっと疲れた…」
「えー!風邪じゃないの?お兄ちゃん!大丈夫?」
「んー…着替えてくる…」

空返事をしながら階段を上がり自室へと引っ込んだ瞬間にベッドへと体を投げ出した。ギシリ、大袈裟にスプリングが唸る。
冬使用に変えた羽毛布団が少しだけ冬の冷たさを染みこませているから肌に冷たい。ふわふわとした感触が体全体を包み、自身の体温で一気に温まった布団はとても気持ち良くて眠気が後頭部からやってくる感覚を味わいながら一護は瞬きを数回繰り返した。
浦原がクラスで浮く理由。ド派手な外見に似合わずクラス内では無口で大人しい。いつだって本を読んでいて時々授業をサボるからクラス内での存在自体が空気だ。しかし人目を引く事に長けたあの外見は教室のどこに居ても目立つ。身長が高くて足も長い浦原は同級生と言うよりも大人びて見える。いつまで経ってもクラスに馴染めない一番の理由は言葉使いだ。目上の人に対しての敬語は勿論だが、それをクラスメイトにまで使ってしまう彼からは拒否の姿勢しか見れない。壁を感じてしまうのだ。
実際、一護のチームメイトでもある同級生達からはなんか怖い等と好き勝手に言われている。
みんな知らないんだ、あー見えて子供っぽい所もあるって事を。
照れたらしかめっ面で憎まれ口を叩くし、冷静そうに見えて沸点は低かったりする、ただ静かに怒るから分からないのだ。それに二人っきりになったら意外に喋るし、普通に笑ったりもする。詳しくは聞いてないけどオヤジさんと仲が悪いとか、猫好きで子猫を見たら構い倒したくなる所とか色々。あとはアレがダメ、虫全般がダメな都会ッ子で運動は出来る事には出来るけど面倒臭がりが勝って常に体育の授業の時は居ないとかだったり。この1年で浦原喜助と言う人が分かってきた一護にとって、今は彼の存在が遠く感じる。
まだ高校二年生、けれど後少しで高校三年生。受験一歩手前が大事だと言われても頭の中では今を楽しむだけで精一杯な一護にとって浦原の口から出た言葉はとてもじゃないけど遠い。
料理の勉強がしたいから留学したいのだと彼はハッキリ言った。
まだ何になるのか、将来的に何がしたいのか、何が自分に取ってのベストなのかが分かっていない一護にとって、浦原はとても遠くに感じられて大人だなと自然に思ってしまっていた。
高校を卒業したらバイトをしながら大学に通って、バイトが無い日には浦原の所に寄ってご飯を食べて話して、たまには出掛けて、バイト代が入れば奢って、出来れば1人暮らしもしてみたい。浦原を家に招くのも良い。この時間がずっと続くのだと思っていた。楽しい時間がこのままずっと続けば良いと無意識の内に思っていた一護にとって、留学と言う想定外の出来事は含まれていなく、一度口にした事を実行に移す浦原だからこそ高校卒業と共に離ればなれになるのは確実だろうと心に打撃を受けていた。
勝手に想像して勝手に打ちひしがれていたのではまんま子供だ。
大人な浦原と子供の自分が釣り合わなくて最終的には訳が分からなくなって一護は強く目を閉じた。

「…一人で大人になってんじゃねーよ…」

今は居ない彼にあてた言葉が部屋の壁にぶつかって戻ってきた。電気も点けてない部屋には冬の黒が蔓延ったまま、一護はゆっくり目を閉じる。













ウィンターダークネス

◆カウントダウンノベル第四弾は分かれ道編でお送りしました。
同級生でやけに大人びた子ってクラスに一人は居ましたよね。浮いてるとかじゃなくて…こう…なんて言うかその子と話しているだけで大人だなって思っちゃうって言うか、学生時そう言う子とつるんでるとかなりギャップあって面白いな〜って思ってた事があります。ライター無くて借りようとした時に鞄の中からチャッカマン出したり「点けにくいよ!どうやって点けんだよ!」勢いで突っ込んだ事がありました良い思い出です。大人と言うよりは自分のペースを保ってる子、それがやけに大人っぽく見れてしまうんですよね。浦原さんはそんな感じの学生さんです。いったんは置いてかれた感がして嫌なんだろうな〜。楽しんで頂ければ幸いです^^

meru




あきゅろす。
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