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ふわりと香るオレンジの新鮮な匂いに浦原は再び目を閉じる。思い出す春の出来事にフフと小さく、誰にも気付かれない様に笑んで2つ目のオレンジを手に取ってナイフの刃を当てた。
浦原はオレンジが好きだ。
強い酸味があるのも、蜜がぎっしり詰まって甘いのも、少しぱさついてても果肉の一粒一粒に弾力があって新鮮なのもどんな種類のオレンジだって食べれるし美味いと思う。
朝は決まって低血圧で偏頭痛を起こす幼い浦原に母親がオレンジを与えてくれたのがきっかけで今では暇があればオレンジの皮を剥いて食べてるくらい。自宅のキッチン、フルーツホールには決まって数個のオレンジが置かれている。
丁寧に皮を剥いて輪切りにしたオレンジは鍋の底に敷き詰める。オレンジをふんだんに使ってその中にブロックの豚肉を丸々入れ、更に蓋をする様に豚肉の上にオレンジを置く。鍋の蓋をして3時間じっくり煮込んで出来上がるのが豚肉のオレンジ蒸し。フルーツと一緒に煮込んだ肉はどこをとっても柔らかく舌先にとろりと蕩けて肉の旨味を弾けさせる。
敷き詰め終わったオレンジは色味の無い鍋の底をカラフルに染め上げ変わらないフレッシュな香りを振りまいている。オレンジの色合いが目にも鮮やかで浦原は最後の1枚をペロリと口に含んで咀嚼した。
新鮮な甘味と香りが口内に広がり、舌先に少しの酸味を染みこませた。うん、美味い。

「こおら、つまみぐいか」

新鮮な果肉の甘味を堪能していれば頭を小さく小突かれた。
背後に立った女性は褐色の肌を白のワイシャツと黒のスキニーに包み仁王立ち。腰に巻かれた黒のエプロンは浦原と同じで裾に「エリオロカンダ」とプリントされている。ロカンダのオーナー兼料理長でもある夜一は意地悪な笑みで浦原を見た。

「オレンジが誘惑して、…」
「お主…」

口内にオレンジの酸味が残り、あとは全てごくりと飲み込んで見せれば夜一は呆れた風に溜息を吐いてオレンジにだけは弱いのおと時代錯誤な言葉使いで浦原を茶化した。
都会の喧噪から離れた住宅街の中にひっそりとあるイタリアンレストランエリオ・ロカンダは小さい頃から両親と一緒に通い詰めていたレストランでもある。
オーナーでもある料理長の夜一とは小さい頃からの家族ぐるみでの付き合い。何に対してもやる気を示さなかった浦原を危惧し、彼が高校に上がったと同時にバイトに誘ったのも彼女だ。
最初は渋々と言った形で始めたバイトではあったが、徐々に料理の世界へと引きずりこまれていった。それもこれも全て、ご馳走した料理を美味い美味いと食べてくれた一護のお陰でもある。育ち盛りの彼はこちらも気持ち良くなる程の良い食べっぷりで、こんな風に食べてくれるなら作り甲斐があるなと感じてからは休みの日に彼を自宅へ招いて手料理を振る舞うのが浦原の日課となっていた。

高校受験に失敗し、志望校でも無い高校を受けて「ああもうこれで人生のスタートを踏み外してしまった」等と落胆してからの日々が意図を持って動き出す、今の生活には満足している。
言われた雑用もこなし、容量良く調理の仮定を勉強し、大学ノートに取ったレシピは今では数冊にもなっている。成長したなあ、と夜一は浦原を見ながらふふんと笑って頭をわしゃわしゃーっと豪快に撫でた。
ニカリ、笑った彼女の口元で綺麗な八重歯が光る。

「どうじゃ喜助、今日のまかないはお主が作ってみるか?」
「え…良いんスか?」
「儂は明太子スパが食べたいのぉ」

浦原が最も得意とする料理が明太子スパ。理由はまだ彼女に話した事はないが、初めて自宅のマンションで作ったのも明太子スパだった。

「あ、さーせん夜一さん。それはダメ。カレーで良い?」
「なんじゃと!イタリアレストランでカレーと!?簡単じゃろうが!儂はパスタが食べたいのじゃ!」

くわっと八重歯を見せつけて威嚇した彼女の目前に両手を掲げてどうどうと落ち着かせながら頭の中でイメージする料理の材料を舌先に乗せた。

「じゃあアンチョビパスタにします?ツナ入れても美味しいかな。あとはセロリとオリーブ。どう?」
「…ぬ、美味そうじゃな」

でしょう?少しだけ笑って見せれば手にパンチされ、美味く作らないとばってんじゃ!と言われ少しだけ緊張してしまった。
出来たら写メ送りつけてやろう。きっと部活終わりの彼は腹の虫をくうくう鳴らして喰わせろ!と色気ない返信をしてくるだろう。思い浮かべたらなんだか楽しくなってきた。
浦原は前掛けエプロンを結び直して調理場へ立つ。
未だ、指先に残るオレンジの香りが出会いの思い出を振り撒いていた。












オレンジの香る春に出会った


◆クリスマスカウントノベル第二弾は出会い編をお送りしました^^
いつだってやる気無くて眠たそうにしてる浦原と部活ッ子な一護さん。出会いは互いに衝撃的。高校に上がった頃の一護さんは髪の毛が若干長め設定です^^これからクリスマスまで彼らの設定をどんどん前に出していきたいと思います^^
ここまで読んで頂けて有難う御座いました^^
楽しんで頂けたら幸いです^^

hyena:meru




あきゅろす。
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