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プラマイ0がちょうどいい

縮める事も、遠ざける事も。


ヒシヒシと伝わって来るナニか。
それは目に見える程にはっきりと、くっきりと。その小さな背中から強く吐き出されていた。

「此処がお前の部屋。」
「はあ。」

隊舎に着くなりこの態度。
終始ニコニコと裏が全く読めない笑顔を振りまいていた第四席の彼は何処かに行ってしまったので、今は二人っきり。

「廁は右に曲がった所と、」
「あのお。黒崎隊長、」
「…っ、な、んだ?」

先程から彼と自分の間にある微妙な空間を跨ぐ様に一歩、彼に近付けば。
ビクリ。と震える肩。

どこからどう見ても。
確実にこちらを警戒しまくっている。

「…はあ、困りましたねえ」
「何が?」
「噂通りだ…」

全く。逆に可哀想だとしか言えない。
本来、この様なタイプは周りからチヤホヤされ明るく我儘に育ちそうなのに。
否、彼の性格上それは当て嵌っているだろう。

やけに明るく、その笑顔に癒される。
とも聞くし。(と言うか無理矢理聞かされた。)

「だからっ、何が…だよっ」
「…はあ、」

二度目の溜め息にカチンときたのか。ギャイギャイと騒がられたらひとたまりも無い。
ああ、これだから子供は嫌いなのだ…。

「なんだよっ!溜め息ばっかつきやがって!!!こっちが逆につきてーよ!!」
「そう食ってかからないで下さい。弱く見えますよ?」
「っ!!!」

吠えてかかるくせに、一行に縮めようとしない距離。溝。
まあ、分からないでもないが。
少々、自意識過剰ではないか?と思ってしまうのだ。


誰がこんなお子様に(しかも同性に!)、手を出そうだなんて粋狂極まり無い事しようだのと考えようか?

見て取れる警戒幕。
これから副隊長としてこちらに就く以上。こんなに面倒臭い物は無い。


酷く、目障りだ。


「お、っ前!!ムカつく!」
「はいはい。あのね、隊長?」
「なんだよ!!!」
「こう言うのも変ですが。アタシ、全くそういう趣味なんて無いので」

は?と言葉が形になり、その大きな瞳に反映される。
オイオイ。ここまで来てその鈍感さは止めて欲しい。

なにこの子。アホなの?

今日で三度目の溜め息を吐けば、眉間の皺が一層、深く刻まれる。


「言葉。意味通じてますか?それとも、みなまで言って欲しい?」



分からない。と言った風な表情が一変して、真っ青になった。

「おまっ、おま、」
「鈍いっスね。」
「お前っ!!!知っていたんじゃねーかっ!!!」

コロコロと良くもまあ、ここまで百面相する人間。
久しぶりに見たよ。
益々、疲れが肩に重くのしかかる。

「知らないだなんて一言も言ってません。」
「でも!!お前、ジジイの所では知らねーってそぶりだったじゃねーかっ!!」
「はあ…あのね?彼処で貴方の機嫌損ねても後が面倒臭いだけでしょ?」
「な、なっ、」
「なんですか?それとも噂通りの欲情誘う御人だ。とでも言って欲しかったんスか?」
「ふざけんなっ!!!!」

ワナワナと震えていた拳が自分めがけて飛んでくる。
かなりの屈辱だったらしいその言葉に、少しだけ涙目になりながら、顔を真っ赤にして彼は自分との不可解な距離を縮めた。

怒りで振るわれた拳の軌道を読み取るのなんて簡単で、その華奢な手首を掴めば(殴られる筋合いは毛頭無いので)、はっとした瞳に自分が映し出される。


「良い加減にして下さいな。こんな茶番に付き合わされた挙句、何故ドメスティック的なのも受けないといけないんです?」
「うるせーっ!!!」
「煩いのは隊長の方っスよ。」
「黙りやがれっ!!まぢムカつくお前っ!!馬鹿にしてんのか!?馬鹿にしてんのか!!」
「人の話は最後まで聞きましょう。習わなかったのか?」
「っ…」

おっと。いけない。
余りの煩さに手に力を込めてしまった。
目の前の餓鬼がバツ悪そうに顔を歪め、視線を外す。


「…はあ、良いですか?黒崎隊長。」
「……」
「アタシはね、過去に貴方を襲った輩とは違う人種なんです。」
「……。」
「貴方の何が彼等を彼処まで追いつめたのか分かりませんが、アタシは同性に欲情する気違いではない。」
「………。」
「そんな趣味も無いのでね。女には困らない質なんです。」
「………自慢、かよ」

ボソリ。と投げかけられた言葉に苦笑して、もう殴る気も失せたとばかりに垂れ下がった手首を離してやる。

「ま。一応襲うだなんて間違い、起こす筈が無いので。宜しくお願いしますね。」
「……フンっ、」
「余り警戒されると癪に触るは面倒臭いはで敵いませんし」
「お前!性格ヒネクレ曲がってっぞ!?」
「はいはい。」
「ムカつく…こいつ。まぢムカつく…っ」


ちっ。と小さく舌打ちをしたかと思えば。


「世話してやるよ。」


等と可愛気も糞も無い言葉が返ってきて、見えない所で吹き出した。


先程の距離からは幾分か溝は埋まっていた。
まだまだ警戒心は残っているにしろ。
まあ、これぐらいだったら仕事に何の差し支えも無いだろう。と思い、スタスタと歩く彼の小さくも華奢な背中を追った。




(軽すぎず重すぎず、至極自然に当たり前に。ぼくらはそっと寄り添うべきだ)



title by 夜空にまたがるニルバーナ




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