[携帯モード] [URL送信]
1


住み慣れたフラットを引き払い、数年住んでいた埃と硝煙臭いあの街を出たのは一年前の事。
荷物は二人でたったひとつのトランク、タバコ2カートンに愛用しているgunがあれば十分で一護の楔とも言える斬月は埃を被ったままクローゼットの奥底へ置き去りにしてきた。良いの?そう聞けば苦笑を漏らしてそっと胸辺りに手をあてられ、服越しから古傷をなぞられる。きっと彼自身のケジメなのだ。
それならアタシだってこの子を置いていかなきゃならないのに、愛用するステアーM9を見下ろしたが、既に一護が話を打ち切った様に未練無く玄関を出たので浦原も無言のまま血生臭い住み慣れた部屋をあとにした。

コンプトンから94.0マイル、何度かに渡り休憩をいれ2時間あまりかけて車を走らせた所、マイラ・モンティは以前住んでいたタウンとは正反対にも閑静でクリーンな所だ。住宅街と言っても良い、汚くも薄暗い路地裏は無く昼夜問わずの傍迷惑な銃声も無い。あるのは小さな公園とコーナーショップ、バス停と小綺麗でアットホームなレストラン、ベーグル屋があるのはあの街と変わらない、一護は少々嬉し気に言った。小煩い婆さんが文句を垂れながらも焼いて出すベーグルはお世辞にも口が綻ぶ程美味いとは言えなかったが、日曜日にホットコーヒーと共に食べる習慣があったからなんとなく嬉しいのだろうと浦原は考える。

そうして見つけた移住地は全く違う空気で二人の体を包みこんだ。
ここはサンセットが暖かいのよ。
そう教えてくれたのは隣家に住む老婆だ。息子が戦地へ赴いてからと言う物、週に一度だけやって来る孫息子のジョンと義理の娘にあたるリンジーと共にカーニバルへ行くのが楽しみだと言う。
購入したプレハブは絵に描いた様なアットホームで優しい家だった。真っ白い壁にベージュ色の屋根、以前の持ち主がイングランドガーデニストだったらしくベランダから出た裏側に面してる庭はとても綺麗。二階建てで日当たりも良好。犬でも飼えば良いと豪快に笑ってみせるブローカーは根掘り葉掘りこちらの情報を探らないから浦原は家では無く彼を気に入って購入したくらいだ。
干渉はしないが決して余所者扱いもしない暖かな街。一護達が捨てた血生臭くも物騒で冷たい街とは正反対だった。


夏が過ぎて10月の半ばまで続いた残暑は好い加減な残り香を撒き散らして秋を手招く。あくまでもカリフォルニアを離れた田舎町、平地が周りをぐるりと囲み牧場があるから厄介なハリケーンは数度に渡り街を襲った。ガタガタ唸る窓の軋みを心配しながらも、隣家のマダムを招いてのフィルム鑑賞会は彼女の表情から恐怖を解き放ってくれた。クッキーを焼いてきたのよ、背景にハリケーンの風景を背負ったまま訪れた彼女はなんとも呑気に微笑んで一護の頭を撫でる。戦地に行って戻らない息子でも重ねているのか、マダムは常に一護を気遣っていた。
迷惑極まりない三度目のハリケーンが去った後に訪れた秋の香りが古傷を抉る頃、街中が原色で派手に彩られた。
オレンジに黒に赤に紫に白。目にも鮮やかだが混ざり合うとどこかおっかなくさせる色使いに二人揃ってwowと感嘆の息を吐いた。
ハロウィンの存在は知っていたが祭りを目の当たりにしたのは二人はこれが初めてだ。なんせあの街では年中無休なゴロツキ達がパンパカ銃撃戦を行っている為に気が抜けない。一度だけスクリームの格好でマフィアの悪巣に忍び込みパパボスを狙うも呆気なく始末された若者が居たくらい。何も10月31日のbaddayに実行しなくても良いじゃないか、ゴロツキ達の呟きにアーメンは含まれていない。それくらい日常なのだ。誰がどこで野たれ死のうが死に急ごうが抗争が起きようが降り掛かる火の粉は避けてこその一流とでも言わんばかりに皆、他人の死に対して無関心であった。年中無休のドンチャン騒ぎ、きっとあの街がウォルトディズニーに登場するとしたらタウン名はハロウィンタウンだろう。いつだって死が潜むほの暗い街を一護は少しだけ思い出した。あの街を出てから早い物で1年と3ヶ月が過ぎようとしている。


next>>




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!