[携帯モード] [URL送信]
2



今日、ランチ一緒にしない?今からこっち来てよ。
有無を言わさない台詞なのに甘ったるい声色だから懇願されていると錯覚してしまう。キスケはいつだって一歩後ろへと身を引いて相手の出方を探る。きっとギャンブラーたる所以が彼をそうさせているのだろう。
決して自分からは望まずに相手に使用がないな、と思わせて行動させるのが彼のやり方だ。現に今、一護は1時間もかけて愛車のファットボーイを走らせたのだから。
ブオン!重低音のマフラーがひと唸りあげて砂埃を巻きながら止まる。いくら秋口に近づいたからとて西側の気温をなめちゃいけない。こういうときにヘルメットは厄介だ。蒸れてしまう。
一護はヘルメットを取って乱れた髪の毛をミラーを見ながら整えた。
まったく…装いなんてあいつは見てもいないっつーのに。
こういう瞬間が心が一番萎える時で、あまり良い心地では無い。

「ちぇっ…」

整えだしたらきりがないだろうから後ろの襟足の跳ねは意地でも気にしないぞとして乱暴にかき乱してモーテルへと向かった。
まるで俺だけが恋する乙女。ああ、まったく間違っちゃいないのだけれど。
なんとなくやる気がしぼんでしまってはせっかくのおめかしもパアだ。
カツンカツンカツン、ブラックのブーツはドクターマーチンで、きっと年中サンダル派のアイツはうわあと顔をしかめるに決まってるが、生粋のロッカーをなめんなよと一睨み決めたらお利口に口を閉ざすから、こういう点では案外一護の方が優位に立っているのかもしれない。全然、ちっとも、嬉しくもなんともないけれど。

「ヘイ!わざわざ飛ばして来てやったぜ!」
「あ、一護さんせめてノックして下さいよ」
「ぎゃああ!!!」

きっと眠気眼でぐうたらソファに座って悪戯にダーツの的を狙って遊んでいるに違いないと踏んで乱暴にドアをあけたのが間違いだった。
ドアを開けてすぐ目にしたのは腰にタオルを巻きつけた上半身裸の濡れたキスケの姿で、油断していたとは言えこれは心の準備をしていても心臓には悪い。すこぶる悪い。
濡れた金髪から滴り落ちる雫が逞しい大胸筋へと落ち流れ、割れた腹筋を濡らした。少しだけ陽に焼けた健康的な肌が男の色香を十分に放っている。
ヤバイ。これは、相当…やべえ美味そう。

「ぎゃあ?なんで叫ぶの、面白いな君ってば」
「ううう、うっせえよ!早く!馬鹿!服着ろ馬鹿!」
「あー…アタシ、家の中では裸族なもんで」

なんだと!!それは初耳だ!ジュリアナ!お前毎日こいつの裸見れんの!?うらやましい!!って違う!
物の数秒で胸の内側に眠るもう一人の自分と格闘してソファにかけられていた服を乱暴に投げてよこした。

「一応俺は客人なもんで」
「はん、週に3回は通ってる癖に」
「うっせーよ。んで?どこに食べに行くわけ?」

投げ渡した灰色のスウェットズボンだけを履いて白のタオルはキスケの肌から離れた。
腰にひっかけるようにして履いたスウェットはそこら辺のマーケットでセット売りされている安物なのに、モデル並みのキスケが着用したら瞬く間にブランド物に見えてしまうから厄介だ。
何よりも厄介なのは意外に鍛えられたしなやかな筋肉が露わになって一護の目の前へと晒し出される事。
もう嫌だ、目のやり場に困るわ、うっかり気を抜くと欲情しそうになるわ、シャンプーの香りだとかポリスの香りだとかでもうなんつーか、色々ヤバイ事態に陥ってしまう。
先月はもっとヤバかった。
一週間前の事になるが、同じ様にランチへ誘われてこちらへ赴いた時、キスケはこのソファでスウスウ健やかな寝息を立てて居眠りしていた。
呆れて何度も声をかけるも起きる由は無し。きっと徹夜で近場のbarで飲んだくれていたに違いない彼は少しのアルコール臭と、そしてポリスの香りを纏っていた。本当、ほんの出来心と言うか一護の理性がこの時ばかりは堪え切れなかった。
だって、一か月してなかったんだ仕方ねーだろう。
特定の相手を作らないにせよ、溜まれば発展場まで赴き、暗がりの中で顔も名前も知らない相手とヤル。あと腐れもない便利なホテル通いは仕事のピークが迫るにつれて足が遠のいていった。
溜まってたと言えば聞こえは悪い。だがその時は数十年間も我慢していた恋心ってやつが勝ってしまい、軽く口づけてしまった。
お遊びの延長では無い軽くないキス。
深く情熱的なキスでは無いにしろ、唇と唇を合わせただけで爆発しそうになるくらい心臓が跳ねたあの高揚感は今でも覚えている。なんてったって時々、彼の唇の柔らかさと冷たい感触を思い出して抜くくらいだ。
Mmm、とまだ気の抜ける返答しかしないキスケを後ろにそうっと唇に触れてみる。
冷たかったあの唇。
ふにに、下唇を挟んで自身の柔らかさを指先に馴染ませては記憶を女々しく辿った。
あーヤバイ、俺ってば本当に末期通り越して変態じみてきた。

「どこいこうかしらね。デリバリーでも良い?」
「なんっでだよ!!ランチつったからバイクも引っ張ってきたんだぞ!?」
「いやあなんつーか最近寝不足で」

ハハ、笑うキスケの眼下には僅かだがクマがある。
思いっきり眉間に皺を刻むも正直なところ、キスケと一緒に過ごせたらなんだって良い。と思うくらいには一護の乙女心は真っ赤に染まりあがっているから強くは言えなくてグヌヌと唸ってしまう。

「なんで寝れねーんだよグースカいつだって惰眠貪ってんだろうがお前」
「おやまあ酷い言われようね」
「そのおねえ言葉やめろ」
「Mmm…だってねえ、階下に下宿してる女が一晩中Slashを爆音で流して煩いんすよね。」
「…女にしては良い選曲じゃねえか」
「いやあ、ありゃきっとフリークだ。度を越してる」

変人って、お前が言うなよ。と突っ込みそうになったの口はお利口にもチャック。
成る程、夜から明け方にかけて爆音であのメロディと歌詞を流されたんじゃあ寝れないに違いないだろう。仏心を出して仕方無いなとホールドアップした一護に対して意味深な笑みを浮かべたキスケは階下の馬鹿女に今日こそ感謝した日は無かった。


next>>




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!