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Old King Cole was a merry old soul!!


蝙蝠少女はタウン一番の気立ての良い娘。
バッドガールと呼ばれるに相応しい彼女の髪の毛は明るくも優しい栗色でブラックベリーの仄かに甘い香りをいつでも振りまいていた。
大きな眼にかかる睫毛は瞬きをした時にパサリと音を鳴らし、栗色の綺麗な瞳は無邪気に笑うのに長けている。
可愛い可愛いバッドガール。ハロウィンタウン一の彼女は歪な翼を広げて夜空を散歩する事が大のお気に入り。
生まれ変わったらエンジェルになりたいのが口癖の彼女は少しだけ頭が悪かった。



Old King Cole was a merry old soul!!



「え?結婚?」

ジャックランタンはお手製のカボチャパイにナイフを刺しながら怪訝気味に眉間へ皺を寄せる。
久しく姿を見せたと思った幼馴染はにこにこと変わらない笑顔を絶やさずに浦原を見ては頬を赤く染めた。可愛らしく微笑む彼女を見て浦原はナイフを抜いて置く。
はあ…いつかやると思った…。溜息が部屋に充満して自分の吐き出した溜息に窒息しそうになった。
蝙蝠少女は歳を取る毎に綺麗になっていき、タウンの男衆はこぞって彼女に求婚したが得意のスマイルで首を横に振られたらもう一度トライしようとする輩は出てこない。時折、力づくで押し倒そうと言う無粋な連中も居はしたが、それも彼女の屈強なる精神によって男としてのプライドをボロボロのボロっカスにされて再起不能へと導くのでいつしか彼女の周りからは求婚者が減っていっていた。後に残るは馴染みのジャックランタンだけ。
初恋の人でもある彼女のスマイルを横目に浦原はドライシガレットを木箱から取りだして平常心を保つ為にマッチで火を点けて吸い始める。
口内に広がる煙の味を舌先で楽しんだ後でフーっと静かに吐き出して見せた。

「また…突然、どうして?」

細長くも白い紫煙が失敗したな、と浦原を嘲笑う。
平常心など保てるわけがないのだ、彼女を目の前にして。浦原だって彼女の事を心の底から愛していた。この感情が妹へと注ぐ愛情なのか、はたまた色んな貢物にて彼女の心を欲した求婚者達と同じ感情なのかは未だにはっきりとはしない。だが、ここにきて彼女の笑顔を見た瞬間に感情の形は徐々に定まりつつある。
ああ、ラブなのだきっと。

「好きな人が出来たからよ」

自身の感情にやっと名前をつけられると思った矢先の失恋に頭を抱えてしまう始末。彼女の…真咲の顔がもう見られないとも、やや女々しく思う。

「好きな人って……まあ良い。おめでとうお幸せに。」
「どんな人か聞きたくない?」
「やだね。ノロケ話聞く程僕は暇じゃあない」
「聞いて欲しいのに…あなたに一番に祝って欲しいのよ?」
「Congratulation!」
「…喜助、怒ってるの?」

両手を掲げて大袈裟なジェスチャーを見せる浦原に対し、真咲は心底悲しげな表情を見せた。眉を落し無邪気に笑む栗色の瞳を揺らして浦原を見る。

「……泣かないで僕の蝙蝠さん…君にそんな顔をされると心底困るよ…参ったな…結婚だって?……幸せなの?」

口に咥えていたドライシガレットを灰皿でもみ消して真咲が腰掛けた椅子の前にしゃがんで手を取った。

「良かったわ。誰よりも一番に祝って欲しかったの。私のジャック」

ふわりと笑んだ彼女はとてもじゃないけれどハロウィンタウンの住人だとは思えない。

「死神と結婚したのよ喜助」
「……パードゥン?」
「ジョーカーと結婚したの」

変わらぬ笑顔で言った彼女を見つめ、手を握ったままで再び痛んだ頭を抱えた。
オーマイゴッド…。小さく呟いても彼女には何も伝わらないだろうと踏んでいる。だってあまりオツムは宜しくないのだ彼女は。そこが小さな欠点でもあるが、彼女の外見と優しさ全てにフォローされているので愛嬌として取っている。しかし、今回は仇となっているようだ。

「まさか…ねえ、あんなにダメだって。禁止していたのにも関わらず。…死神の国に行ったの?」
「だって…面白そうだったんだもの…」

ごめんなさい。小さく謝って浦原の手をキュっと握り懇願する。やり方が昔から変わってない。
どんなに怒っても悲しそうな顔を生み出して見つめた後で繋いでいた手をキュっと握るのだ。離さないでね、言われててもおかしくないやり方に最後はいつも浦原が折れていた。
困った、こういう事になるのなら小さな翼を毟り取っておくべきだったのだ。蝙蝠達は皆好奇心旺盛なのだから。

「…じゃあ、結婚したらタウンを離れてあちらで過ごすの?」
「そうなの。既に家も決まっているのよ。それでね…喜助に頼みたい事があるの…」
「ちょっと待って、黒猫売りの爺さんを説得とか言わないでよ?あの人苦手なんだ…頑固過ぎて言葉が通用しない…」

真咲の育ての親でもある老人は年中黒猫を売り渡っている紳士だ。

「ううん。それはもう大丈夫なの。ちょっと心拍停止したけど今は元気よ。もっと簡単な事」

彼女が見せる最高の笑顔。周りが全てパステルカラーの花畑に見えてもおかしくないくらいの笑顔にNOと言える男が居たら是非とも拝んでみたい物だ。YESと言ってしまった浦原は第三者から見ればルーザー同然。ちなみに、なぜあの時断っておかなかったのかと危うく自身の首を絞めて懲らしめるところだった。
私の可愛いブラザーよ、一護って言うの。この子は体が未熟だからあそこの空気には馴染めないの…喜助、一護を宜しくね?
やや強引に両手に収まる程度の小さな雛を浦原へ手渡してにっこり再び笑んで見せた。
ああ…敵わないな…。
タウン一番腕っ節の立つ浦原の唯一敵わない人が真咲である。彼女は可愛らしい天敵。
タウン一番気立ての良い蝙蝠少女。可愛い可愛いバッドガールはオツムは弱かったが、どうしたら自分を世界一可愛らしく見せるかを十分に心得ていた。


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