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月(それは笑う事を知った鬼)
自分以外の異色に目を引かれた。

嫌な気持ちを持ったまま、開けた扉の向こう。待ち構えていたのは金色がくすんだ。まるで月をイメージさせるような異色。
一回だけこちらを伺った同色の瞳は冷めた湖の様に冷たく。
直ぐに視線を外された態度に、
第一印象は最悪。

(態度悪ぃ)

と、自分の事を棚に上げてそう思い、馬鹿にされたくない幼稚なプライドを虚勢した。

「おお来たか来たか。どれどれ一先ず挨拶といこうかいのお?」

こちらの気分を計れない元気な老人は何故か嬉しそうで。
それにちょっと額に青筋を浮かべたまま苦笑いをかました。

「浦原や。こちらが十三番隊隊長黒崎一護じゃ」

形だけ会釈をすれば、目の前の男も少しだけ苦笑いをし、

「浦原喜助と申します。宜しくお願いします黒崎隊長」

声が以外と透き通っているんだな。と思った。
細身の割には身長は自分より頭二つ分でかく(それも癪に触る)それを見上げる様な形になるのだけは避けたかったので、敢えて視線を外したまま会釈を返した。
後ろで水色が笑ったのが分かった。
(どうせまだ餓鬼だよ)

小さく舌打ちをする。
「黒崎、噂は聞いておるじゃろ?浦原は元十二番隊隊長を努めておった男じゃ。」
「昔の話ですよ」

私情で引退してもうての〜。と残念そうに言う老人を目前にして浦原と言う男は謙虚に苦笑しながらそう放った。

「はい、噂はかねがね。かなりの有望各だったと聞いております。」
「いえ。それほどでも、」
「今は技術開発局局長をお勤めなさっているのでしょう?」
「はい。目立たない部署ですが楽しくやっています」

なんだか苛々した。
謙虚に謙虚に、けれど深くは探らせず、浅く広く付き合いをするタイプの様に感じて。
その優しそうに笑む口元だとか、それでも瞳は鋭くこちらを観察しているみたいで。これが大人と言う奴なのだろうか?
本音が読み取れない。

「浦原は副隊長の話は承諾済みじゃ。後はお主がこの話を飲めば副隊長不在も無くなる事じゃろう。」

どうじゃ?と嫌なプレッシャーをこちらに投げつけながら老人が問うた。


「よろしいのですか?本当に?」
「…と、言いますと?」

老人と水色が溜め息を吐いたのが分かったが、敢えてそれ等をシカトした。

「元隊長を勤めていた貴方様が、こんなヒヨッコ同然な若僧の下に就くと言うのは…余りにも侮辱では無いのでしょうか?」
「黒崎や、」
「隊長…」

二人の言葉を無視して、更に話を進めた。

「実力も何もかも備わっている貴方様の足を自分は引っ張ってしまわないかと…」
「心配いりませんよ」
「……は?」

緊迫した雰囲気が充満する部屋の中、なんとでも無いと言ったかの様に発せられた声色に素に返ったのは何も自分ひとりでは無かった。

「こちらももう十数年のブランクが有ります故、貴方はまだお若い。体力的にも上を勝っているのは誰の目から見てもお分かりでしょう?それにこちらも貴方の噂は嫌と言う程、耳に入ってきますよ。」

ニコリ。と微笑んだ表情に、十三番隊隊長・第四席は青醒め、総隊長殿は息を飲み込んだ。
一同思う事は唯ひとつ。

(何を言い出すのだ?この男は)

仮にも隊を預かっている隊長各が副隊長に押し倒され、挙げ句の果てには襲われそうになった(しかも一回や二回の出来事ではないから質が悪い)あの屈辱的な事件をその口から出そうとでも言うのか?
否、噂と言ったな。
噂?噂だとう?!そんな噂がただ漏れしている時点で、一護は心底ここから消えて失くなりたい。と思った。

「希に見る奇才だと伺いました。」
「へ?」
「人望も強く、実力も驚異的、何よりその優しさと正義感の強さで皆、貴方に憧れていると。副隊長不在は貴方の足を引っ張っているんじゃないか。と彼等がそう勝手に思って引退したのでしょう?あまり憧れが強いとこう言う所で欠点が出てきてしまうのですね。」

ほう。と安知の溜め息を吐いたのは水色と老人。
ニコリ。と再び微笑んだのは目の前の嫌になるぐらいの大人。
ちっ、と舌打ちをしたいと思ったのは十三番隊隊長。

「良かったではないか黒崎。人望な男がおって!して、決定じゃな?黒崎や?」
「……………はい。」

長い沈黙の後、二言返事で決定を出した自分を殺してやりたい。
これが大人の余裕と言う奴か?

「では。これから宜しくお願いします。黒崎隊長」
「……ああ。」

ニコリ。その微笑んだ表情がやけに勘に触った。

絶対、コイツとだけは腹割って話も出来ないだろうし。況して笑い合い、助け合う事もしないで精々、3ヶ月程度で関係は終わるのだろうな。
と、心の中で思った。

胡散臭い笑顔の下にはどんな感情が隠れているのだろうか?
ふと、そんな事が頭を霞めたが。その考えにげんなりして、考えを放棄した。

ああ、今日は最低最悪の一日だ。



(胡散臭い月)




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