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「ごめん」
「え?」

一護の声がクリアに鼓膜を揺する。
少しだけ埃臭くて草臥れた感じのする空き教室は屋上へと続く階段の側にあり、本校舎の東塔の端の端、誰の目にも留まらない場所にひっそりと存在していた。
夜になれば幽霊が出ると言う噂の、どこの学校にも存在する開かずの間。
祭りの喧騒から逸れた場所に漂う静寂が一護の小さな声を露にさせる。

「……友達、……だったんだろ?…俺、もう帰るから」
「待って。なんでそうなるの?」
「だ、って…」

大方、自分が友人達との馴れ合いを邪魔したと思っているのだろう。胸中で渦巻く不安の種が目に見えて分る程度には、一護の表情は暗く曇っている。
浦原の隣を通り過ぎようとした一護の腕を思いのほか強く掴んでしまった。
少しだけ痛そうに歪んだ眉が、今度は泣きそうに下がる。

「今日はね、君の為に空けておいたんです。」
「…へ?」
「だから。……君が今日来るって言ったんでしょう?前半は店番して、後は全部市丸へポイ。それで女装の条件オーケイしたんだ。今日の僕は君専用。だから気にしないで良いの」

眉間に寄せた皺が彼らしくなかった。
今日の僕は君専用。今日の僕は君専用。今日の僕は、

「そっ、それって!なんか、ホ、ホストみたいだ!」
「おんやあ?そんな言葉、どこで習ってきたのかなあ?」

隣同士、肩を並べて座った席。浦原は腕を伸ばして一護の頬を突く。
埃臭い筈の空き教室なのに、窓に引かれたカーテンがクリーム色だからだろうか。
カーテンの向こう側から射し込んだ太陽の光りが淡い色彩に変わり教室中を柔らかく包んでいる。ガランとしているのにどこか新鮮で暖かな雰囲気を醸しだす。本当に幽霊が出ると噂されているのだろうか。一護はくるりと教室中を見渡した。

「どうしたの?」
「…え、……や、えっと……」

キョロキョロし始めた一護を見て浦原は笑った。
机に腕を投げ出して突っ伏しながら一護を下から見上げる。かち合った瞳が柔らかい金色に変わったのを見て一護の胸はドキリと切ない程の唸りを上げた。痛みにも似た胸の高鳴りから目を反らす様に、同じく浦原の視線からも逃げ出す。

「あ、空き教室。なのに……綺麗に整頓されてんだなあ…って」
「ああ。夜になれば出るらしいっスけどね」
「………出るって…」
「…………ゆーれい」

不気味に笑って低くした声色で言う。演技かかった口調に肩から力が抜けた。

「なにそれ、全然怖くないんだけど」
「やーん、黒崎君ったら強がっちゃって〜」
「……なにそれキモイんですけど…」
「ちょっと。真顔で、しかも敬語で言わないでよ!浦子悲しい!」

小学生みたいに机を並べて、触れ合いそうになるギリギリのラインを保った肘同士がぶつかり合う。浦原の視線に合わせる様に一護も机に腕を投げ伸ばして突っ伏しる。横向きの状態で、しかも間近で浦原の瞳と対峙する。
いつも家とかで合っている瞳が、違う場所、一護の知らない場所で合わさった事になんだか不思議なトキメキを感じた。正直、馬鹿恥ずかしい。でも、なんだか嬉しくて照れ臭い。
窓を背にした浦原の表情は少しの逆光で影かかっていたけれど。きらりと光る金色は一護の視線を捕らえて離さない。

「お前の目って…、やっぱ綺麗だよな」

落ちた前髪が瞼にかかりそう。金色で綺麗な髪の毛も好きだけど、今はその瞳を良く見たいから。
一護はかかり落ちる前髪をそうっと人差し指で梳かして耳にかけてやった。

「……一護さん」
「ん?」
「なあんか今の仕草、妙に男前だったなあ……どっかでやった事ある?」
「……はあ?」

瞬間意地悪く笑った瞳に嫌な予感がした。あんなにも柔らかで優しい色彩だったのに…勿体無い。と一護は思いながら視線を前へ移す。
目の前には何も書かれていない黒板があり、その前には教卓。一護の通う学校となんら変わらない場面。今、学校に居るみたいな錯覚を味わう。否、実際学校に居るんだけれど。

「同級生みたいですね」
「……今言うか?ソレ…」
「放課後ってシチュ」
「わあ、なんか嫌。すげー青春単語じゃん!」
「しかも告白前」
「……やめろ。洒落にならん」

にんまり笑った瞳が一護を映しだす。
今にも舌先がぬろりと出て下唇を舐めてしまいそうな笑い方だ。ゾワリと背筋に走った寒気が一護の口角をひくりと吊り上げた。

「しかも、おあつらえ向きにお前は女装だし」
「……黒崎君」
「おい。やめろ。その裏声止めろ!見ろよ!俺のこの鳥肌!」

今度は明確な気色悪さで立った鳥肌を見せる為に一護は袖を捲って腕を見せる。
悪ふざけを止めない浦原はめげずに目前に差し出された腕を取って、若干ではあるが上目使いで見上げて口を開いた。ゾワゾワと嫌な予感しか背筋を走らない。

「好きです。……アタシと付き合ってください」
「……駄目だ。萎えた……」
「もう少し考えて!!」

やけにキラキラと光る乙女ちっくな瞳は良しとしよう。だが如何せん成りがいただけない。古典的なセーラー服を着用した浦原だが、スカートから覗く足は閉じられてはおらず、男座りのまま開ききっている。スカート履いてる自覚がねーのかお前は。目のやり場に困ったから左手で瞼を覆った。

「分りました。なら言い方を変えて、」
「………浦、」

先程の裏声じゃない普段の低い声色が耳に響いて、一護は指の間から浦原を見た。
ずい、と距離を縮めたと同時に耳元に触れるか触れないかの距離で唇を近づける。

「…一護、」
「っ!」
「好、き。僕と付き合って下さい」

有無を言わせない声色だと思った。ズルイ。一護はきつく目を瞑る。
浦原の声色はこんなにも一護の胸を締め付けて、身体と思考を支配する。意図なんてしていないのに指先から震え始めて、循環する様に心をも震えさせる。
畜生、こんなにも好きだ。大好きだ。一護はキっと音がする程強く浦原を睨み付けた。

「つか、付き合ってんじゃねーか!」
「そうでした」

ふにゃりと笑う。いつもの笑いとは違う(きっと家庭教師の夜一さん辺りが見たら「鼻の下伸びてるぞ」と揶揄するだろう)笑みのまま一護の頭を撫でる。
とても幸せそうだなあ、第三者から見たら情けないと思うかもしれないけれど、一護には少なからずそう見えた。

「好きだよ。一護さん」
「…お、まえねえ……」

5センチ程空いた距離が近付く。0センチの距離は心臓に悪い色彩だけが目一杯に広がる。
いやらしい色を含まない声色は酷く優しくて、指先を撫でながら絡めた指と指は優しくも柔らかな束縛に変わる。きゅっと握り締められる手と同時に心臓も鷲掴みにされた。
厄介な恋心がまたムクムクと育ってくるから。一護は耐え切れなくなって、浦原の目尻に軽くキスした。

「珍しい」
「……お、俺だって男なんだ……したい、…って思う事、も…あ、あるっ!」
「なんでどもってんの」

おかしそうに笑われたら少しムっとする。
なんでお前はそんなにも余裕なんだよ。咎める様、拗ねた様に唇を尖らせて言えば「僕だって余裕は無い」と真剣な面持ちで言われるからグっと息を飲んだ。

「出来る事なら君のハジメテを全部、独り占めしたいんだ」

また、低い声で囁かれた。浦原のこういった声色を耳が拾う度、背中へと走る寒気は快感だと身をもって知っている。
だから厄介なんだってば…。浦原に悟られぬよう、それでも真っ赤な顔を隠して一護は小さく震えた。
馬鹿。もう、俺のハジメテは全部全部お前の物なのに。悔しいけれど事実だ。でも言わない。だって恥ずかしいから。
照れ隠しみたいに繋がれた手に自身の手を重ねて更に拘束。決死の思いで羞恥を振り切って顔を上げる。
未だ優しく微笑んだ金色見つめながらも小さく、小さく口付けた。










青春の色はきっと柔らかなクリーム色


◆壱四萬打ム有難う御座いましたお礼小説!!
原作でも黒幕扱いな雰囲気バシバシの旦那では御座いますが、これから原作で沢山拝見出来るのを全裸待機で待ってます。そいで浦一ファンが増えたら良いな!!とも思っております^^
ここまでhyenaがこれたのが嬉しいです。壱四、…だと?(ガタッ)ちまちまこそこそと活動しておりましたが、仲良くして下さる神同人様方のサポートもあり今年はオフ活動デビューにも踏み切ることが出来て楽しいです^^サイトの方も通常運転していきますのでどうぞこれからもhyenaとmeruウンコを宜しくお願い致します^^/
今回、季節はずれの学園祭ものを取り扱いましたが浦氏とギン氏がセーラー服着用と言うこのマニアックさ。そしてヤツ等ノリノリである。なちょっとテンション高めのお話でお送り致しました^^一護さんじゃなくて旦那の方にコスプレさせたい私が居ます←
かなり糖分高めのお話になりましたが(私、青春って言葉が一番恥ずかしかったです///)楽しんで読んで頂けたら幸いです^^
本当、月並みの言葉しか思いつきませんが壱四萬打ムとても嬉しいです!!有難う御座いました!!
これからも妄想爆裂サイトで通常運転していきたいと思いますので宜しくお願い致します^^


壱四萬打ムお礼
hyena:)meru




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