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サンセットラインに左様なら2



コートを脱ぐ前にポケットの中へと突っ込んだ携帯とジッポ、GARAMとパスケースをベッド上に放った。
クローゼットから取り出したハンガーにコートをかけ、パソコンを起動させる。冬の寒さが充満した部屋を温めている最中にベッドの上に放置された携帯がヴヴヴと唸りを上げたので浦原はゆっくりと振り返る。
ネルと別れて帰路に着く間まで沈黙を守っていた携帯はタイミングを見計らった様に音も鳴く震えていた。バイブ音の振動が白のシーツカヴァに伝染し小刻みに震え上がらせる。鳴り続ける音の振動で電話だと感じ取った浦原は携帯を取り上げ液晶に表記された名前を見て目を見開いた。

『元気か?』

珍しいと思いながらも通話ボタンを押し、浦原が何か言うよりも先に相手側から声を放つ。
自身よりも低く、渋い声が受話器越しから聞こえて浦原は苦笑しながらもイエスと答えた。

「どうしたんスか?珍しい。そっちは夜?朝?ああ……明け方って所っすか?」

ネルと別れた後、少し散歩をしながら久方振りの故郷を探索して帰宅したのが15時過ぎ。ベッド脇のサイドテーブルにある時計は16時前を記していた。

『まだ夜中に近いけどな。……そっちは、寒いか?』
「極寒」

ハハ、笑った声がやけに耳に響く。きっと部屋の中なのだろう。
何故彼が、斬月が態々こちらに電話をしてきたのか、その意図が読めない浦原は相手が持ち出してくるまで様子を伺いながら待つ事にした。

『………浦原』
「…はい」

たっぷりと間を置いて名前を紡いだ斬月の声は電話越しにでも分る様に悲観的要素を十分に含んでいる。浦原は心なしかザワザワと嫌な予感が胸中を占める感覚に捕らわれていた。

『回りくどい言い方は好かない。単刀直入に聞きたい。……何故、日本を離れたんだ?』
「そ、れは……」

斬月の低くて単調な声色が耳によく響く。

『ロスを離れて帰って来たのだろう?また、あのモデルお抱えのカメラマンに戻るのか?』
「……まだ、契約はしていません。けど…」
『いや、お前が決めた事に口を出す権利はないからな……なにも責めている訳じゃないんだ……ただ、』
「……ただ?」
『理由だけでも聞いておこうと思ってな』

フ、と小さく笑う声が聞こえる。斬月らしかぬ微笑だった。
浦原は胸中に渦巻いたざわめきに耳を傾けながら浅く息を吐いて想いを口に出す。

「……僕は、……逃げているだけなのかも、しれない………」
『……そうか。………』

そうか。二度、続けた。その言葉以外に投げかける言葉なんて見つからない。斬月はそう感じ取って浦原と一緒に言葉を飲み込んだ。
カーテンが閉められてない窓の外では冬の寒さを含んだ闇がただただ世界へと充満しているだけ。暖房の効いている部屋で見るその色彩に惑わされてなんだか心まで寒くなる様な予感がヒシヒシと冷たいフローリングから伝わる。

『…分った。……すまないな突然電話して』
「いえ……大丈夫。………斬月」
『ん?』
「……なんでも無い……落ち着いたら今度はこちらから連絡します」

あの子は元気?だなんてとても聞けなかった。そんな無責任で不躾な言葉はお互いの間を傷つける要素に十分成り得るかもしれなかったからだ。
浦原は斬月に隠れる様に拳を握り締める。見えるわけも無いけれど、やっぱり後ろめたい心だけは臆病にも震えてしまうから。電話を切った後もまだ握り締めた拳をそのままに、浦原は窓の外を眺める。
冬になったから日が短い。既に暗くなった外に夕焼の赤さと暖かさはどこにも無かった。
















暖かい筈の色彩が消えていく


◆旦那のターン(笑)
文中に出ています日本料理店は本当はNYのStreetBrooklynにあるんですが……ちょっちロスまでお出かけして頂きました(笑)
恋愛に対して不器用な二人が好きなんですが、今回は旦那の方が臆病者にも程がありますねコレ……(苦笑)
LAの冬は寒かろうて…しかし関東も負けちゃいないよ!!(何勝負?)




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