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ホラ、良く漫画とかドラマにありがちなシーンってあるじゃないですか?
泥酔した人間程、本性が露になって欲深くなる上にやけに素直になるって言う女性向けのベタなシーンってやつ。正直な所、アレを望んでいたのであって、決してこんな場面を望んだ訳ではなかったのだと、初めに言い訳しておきます。


「もうのまねーの?」
「……いや、……頂きます…」

手酌にて注いだ酒が入った猪口を手渡され、その中の透明な液体をグイっと飲み干した。
喉を通る際に熱を発したソレが浦原の脳内をぐらぐらとさせる。身体が熱い。まるで発熱にも似た温度が身体全体に巡り、若干ではあるが指先が麻痺している。上戸な浦原がここまで酔っているんだ。見た目にも弱そうな一護が未だ酔わずに黙々と酒を注いでは飲み干し、それを繰り返している。ペースが早い訳では無いが、既に二升は空けている。信じられない。浦原はそんな目で一護を見た。

「……なんだよ?」

自分でも意識していない内に一護を凝視していたらしい。
不貞腐れた様に唇を尖らせ、少しだけ赤く染まった頬を露にして一護は浦原を睨んだ。

「あ……いえ……。ねえ、黒崎さんって、そんなにお酒強かったっけ?」
「まあな」

素っ気無い。そんな言葉が似合うくらい、今の一護は普段より口数が少ない。
寡黙とまではいかないが、一護は同年代の子供達に比べたら口数は少ない方である。そんな彼が浦原の前になればぶっきらぼうながらも世間話をする様が優越感を燻る。
最初の頃は警戒心丸出しの猫みたく浦原にさえ近寄らなかった彼が、毎日とはいかないながらにも学校帰りに顔を出しては小時間だけ世間話をする様になった。
学校で起こった事、友人達の話、妹の話、そして一護自身の話。いつの間にか一護が顔を出してくる日を待ち遠しく思っている自身が居る事に気付く。
慕情とまではいかないにしろ、少なからず自分はこの子供に興味を示している様だ。
浦原はまたチラリと一護を見る。
子供の線は消えていても成人男性の身体には程遠く、線が些か細い首筋。元々白い肌は中々焼けないらしく、太陽に当たっても赤くなるだけで黒くはならない。それがコンプレックスらしい。白い肌にうっすらと赤が映る。仄かに火照ったその色彩が今は目に毒だ。

「なんだ浦原さん、酔ったかよ?」
「ええ……」

君に。とは流石に言えず、酒と共に流し込んだ。

「少しだけ……。黒崎さんは弱いと思ったんですけどねぇ」

浦原は火照った頬を隠す様、俯き加減にこめかみを指先でかいた。自分の浅はかな気持ちごと誤魔化す様に一護から視線を反らし縁側を見つめる。
夜の空気は冷たく、すぐ近くに冬の気配を感じる。
未成年を連れ込んでこうして酌を交わしている事が世間にバレでもしたらお縄であろう。否、もしかしたらこの慕情に似た劣情も洗いざらい吐かされた挙句に後ろ指刺されても仕様が無いくらい。
はた、と自分の気持ちが膨張している事に気付く。
劣情、だと?
再度、一護を見た。

「……だから、なに?」
「え……?」

浦原と同様、縁側を見つめていた琥珀色がこちらを振り返る。怪訝そうな面持ちで浦原を見た後、ククと彼らしくもなく笑い出した。
喉元で声を押し殺した様な笑い、どこかで見た事がある。浦原はそう思いそうっと小首を傾げる。

「ずっと、………俺を見てる」

嗚呼。浦原が啼いたのか、はたまた冬の気配が啼いたのか、分らない。
分らないが、射竦める様な琥珀色に自分が映っているのを見て気付いた。
今、自分は目の前の子供に口付けをしたい。漠然とした気持ちが不意に脳内を占めてアルコールの速度を速める。

「キス、したいなぁ……」

気付いたら一護の目が丸くなっている。大きい目だなぁ、と暢気な事を考えて、直ぐ様浅はかな気持ちを口に出してしまった事に気付き顔を真っ赤にさせた。
なんて事を、言ってしまったのだろう。
キスがしたい……だなんて。

「………なぁんて」
「良いぜ?」
「……は?」

普段通りにお茶らけて言えば失敗した。
震えた声は夜の闇に混ざる事なく浦原と一護の鼓膜を劈く。酒の力を借りているとは言え、自分はこんなに弱くは無い筈だ。
そんな浦原の葛藤を知らずに一護はずい、と身体を移動させる。
酌を横に置き、四つん這いのままで浦原へと近寄った一護の琥珀色が、目に鮮やかだ。

「あの……くろ、さ」
「黙って」

近寄る琥珀、後ずさりする金色。言葉を発さんとする浦原の唇に人差し指を押し当てて一護は目前でそう言った。
ああ、吸い込まれそうだ。うっすらと溶けそうになる琥珀色に浦原はそう思った。
近付く唇を甘受し、膝上に乗り上げた子供の腰に手を添える。

「………」

ちゅ、と軽く触れた唇が離れた。少しだけ、熱い。お互いの体温が熱くて、どちらの熱なのかさえも分らなくさせる。
想像よりもはるかに柔らかい彼の唇。触れただけの口付けは久しい。子供さながらな口付けに浦原の体内のアルコールが更に熱を呼び起こす。

「……はい。終わり」

浦原の肩を押しながら顔を反らした一護が離れようとした瞬間、細い腰を支えていた腕に力を込めて束縛する。

「もっと」
「え…、ら……っ、!!!」

体中を巡る熱に犯されたとしか思えない。
一護の後頭部を左手で押さえ、肌と肌を合わせる様に腰を抱き引き寄せる。声を荒げようとした子供の口を乱暴に塞ぎ、息つぎをしようとしたその隙間にすかさず舌を入れた。
ぬろり、と柔らかな感触と酒の味が舌先を刺激するので一護は眉を顰めてぎゅうっと目を閉じる。
くらくらする……。浦原のアルコールが染み込んだ舌先に、熱に、初めて味わうキスの味に、翻弄された脳内がチカチカと目前に火花を散りばめる。

「ん…、ん、ん……んぅっ」

くちゅ、と響いた音が矢鱈恥ずかしい。唾液同士が絡み呼吸を奪い合う音がこんなにも厭らしい物だとは到底、思いもしなかった。

「は……っ、……黒崎さん…、君、飲んだフリしてたでしょ?」
「っ!!!」

ばれたか。一護は言われた瞬間に顔を真っ赤に染めて再び顔を反らした。
唇が濡れている。なんだか湿っぽい。如何にもキスの後ですと言わんばかりの風体で凄く嫌だ。浦原からアルコールを摂取したみたく身体が熱い。頭がクラクラする。深いキスに、大人なキスに、まだまだ子供である一護は戸惑いを隠せないでいた。

「アタシを、」

浦原の神経質で細長い指先が耳にかかった髪の毛を梳く。そして滑り落ちる様に耳裏を撫でられて体がビクリと反応した。

「こんなに酔わせて………どうするつもり?」

吐き出した吐息が熱い、浦原はそう感じた。
身体中に巡ったアルコールが一斉にザワザワと唸り始め、動悸を早める。触れてしまえば興味は慕情に、慕情は劣情に変わり行く。指先から伝わる子供の熱に浮かされ、まだまだ自分も若いなと他人事みたく思う。
もう、止められない。

「お遊びの延長でも、子供特有の興味本位も……通用はしません。」
「……」
「ねえ、どうしたい?」

顎に触れて顔を向かい合わせる。
琥珀色の大きな瞳に映る夜の黒と浦原の金色が混ざり合って、ああ……いよいよ自分は熱に支配される。そう、感じた。

「どうしたい?黒崎さん」

再度問う。
低く囁いた途端、子供は眉間に皺を寄せたまま眉を落とす。伏せた瞳に被さる様に長い睫が薄く影を象った。その表情が何故か泣きそうに見えた事で、浦原の熱を更に上げる。そんな顔されるともっと啼かせてみたくなるでは無いか。場違いな嗜虐心が沸々と胸中に広がり、一護に触れる指先はそれとは逆に優しい。
触って、浦原…触って。真っ赤な顔で、蚊の鳴く様な小さな声で、一護は言った。
想像以上に子供の欲望は甘ったるい。胸ヤケしそうな程打算的な甘さにクラクラした。


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