喘いでみどりん! 10※ 勘違いをしては駄目だと、俺は自分に言い聞かせた。 俺はスパイで、こいつは盗人だ。 甘い言葉に騙されては駄目だ。 分かっている。 分かっているのに、全神経が桐山に向く。 桐山に与えられる刺激が、言葉が、俺の心を溶かしていく。 非道い男だ。 何故こんなに優しくするのだろう。 こんなことをされたら、期待してしまうではないか。 「ねぇ、見られて興奮した?」 後ろから突きながら、桐山が意地の悪い声を出す。 「して、ない…!」 荒い息の合間に答えると、桐山が背後から覆い被さってきた。 「嘘。イってたじゃないか」 耳元で囁かれ、次いで耳を甘噛みされる。 思わぬ刺激に身を震わせながら、俺は唇を噛み締めた。 「そ、れは…」 言い訳できず、俺は必死で言葉を探す。 その様子を見て、桐山は体を起こした。 それから俺の腰を掴み、容赦なく責め立て始める。 ズチュン!ズクッ! 「ああ!ハァ、あああん!」 「素直になるんだ。人前で奥を突かれて、中をぎゅうぎゅう締め付けていただろう?」 ズッズッズッ! 「ふぁああ!だめ、そんな、ああッ」 激しい腰使いに、体を支えていた腕から力が抜ける。 尻を高く突き上げる格好になり、さらに上から深く肉棒が突き刺さった。 グチュン! 「あああァ!」 「邪魔が入ったと思ったが、あんなに締め付けてくれるなら、また呼びたいくらいだな」 桐山は笑いながらとんでもないことを口にする。 俺は首を何度も横に振り、涙目で桐山を見た。 「や、だめ……ッ」 すると、それを見た桐山が俺の体をひっくり返し、正常位にしてキスをしてきた。 「んぅ…ふ…」 クチュクチュと舌を絡め合いながら、桐山は腰をなすりつけるように中を肉棒でゆっくりとかき回す。 ジュ…ズチュ… 唇が離れると、桐山がコツンと額をぶつけてきた。 「嘘に決まっているだろう。こんな可愛い顔、他には見せてあげないよ」 ドアップで凄いセリフを言われ、俺は首まで赤面してしまう。 両手で隠そうとしたが、桐山によってベッドに縫い付けられ、再び唇を奪われた。 「んん…う…」 目を瞑って快感に耐えていると、桐山が唇を離して俺の両頬を包んだ。 「隼人」 目を開けると、桐山がジッと見つめていた。 「隼人と、呼んでくれないのか?」 「―――!」 お願いされ、俺は口をパクパクと意味もなく開閉する。 それから目をそらし、小さく呟いた。 「……んで」 「うん?」 優しく問い返され、俺はきっと桐山を睨みあげた。 涙目だったため、おそらく威勢の欠片もないだろうが。 「なんで、そんなことを言う?お前は敵だ。名前なんて呼ばない。優しくもするな!」 「敵って…」 桐山は苦笑しながら、驚いたように俺を凝視する。 「……じゃないと…」 俺は言いかけて、目を伏せた。 桐山が頬から手を離し、俺の頭の横に手を突いて上から見下ろしてくる。 「じゃないと?」 先を促され、俺は片腕で両目で塞ぎ、弱々しく吐き出した。 「……困る」 「困る?」 復唱され、とんでもないことを口にしたことを自覚する。 どう言い訳したものか迷ったが、俺は正直に白状した。 「……勘違いする」 すると、桐山が動きを止めた。 「…勘違いって?」 桐山がすっと目を細める。 俺は腕を外し、潤んだ目で桐山を見上げた。 この瞬間が続けばいいと。 ずっとこうしていたいと。 まるで恋人のような甘い時間を、終わりにしたくないと。 勘違いしてしまう。 全てを忘れたくなってしまう。 俺は答える代わりに、自嘲的に笑ってみせた。 しかしうまくできず、くしゃりと泣きそうな笑みになってしまう。 皆まで言わずとも察したのか、桐山は今度は荒々しく唇を塞いできた。 「私のことを、好きになれ」 合間に言われ、俺は驚いて息を止める。 「何故、1人で全て背負おうとする?助けてという一言が、どうして出てこない?」 間近で見つめられ、その真剣な表情に息をのんだ。 「矢武などに従うな。私なら助けてやれる」 これも、作戦のうちなのだろうか。 矢武を陥れるために、俺を利用しようというのか。 もう、何が本当か分からなくなっていた。 助けてって何? だって、背負うしかない。 俺は千尋を守らなくちゃならない。 桐山なら、千尋を守ってくれるという保証が? いや、無理だ。 だって千尋は、既に矢武の手の内で、どこにいるかも分からないのだから。 [*前へ][次へ#] [戻る] |