君の声が聴きたい 14 (――――へ?) 突然声をたてて笑い始めた高城を、紅太郎はポカンと口を開けて見つめていた。 高城はどうにも収まらないのか、腹を抱えて笑っている。 目に涙さえ浮かべている姿に、やはり美人は笑っている姿が一番いいなとか、どうでもいい感想を抱いた。 (えっと……?) ひとまず笑いを収めた高城が、戸惑う紅太郎に申し訳なさそうに手を挙げた。 「いえ、あの、すみません」 まだ言葉の端々に笑いを残したまま、高城が弁明する。 「違うんです、その、すごく分かりやすいというか、素直な方だなあと思って…」 その言葉に、紅太郎は苦笑した。 やはり、自分に演技は向かないなと改めて実感する。 「気分悪いですよね、すみません。あ、でも、笑ったのはそのことじゃなくて」 高城は指で涙をすくいながら紅太郎を見た。 「僕も、初めて隊歌を聴いた時、必死で笑いを堪えてて」 笑いながら白状する高城の言葉に、紅太郎は驚いて聞き入る。 「だって、神を射落とす美貌ですよ?もうおかしくっておかしくって。しかも皆大真面目に歌うから、それがまた…」 紅太郎はどう返していいか分からず、乾いた愛想笑いを浮かべていた。 「でも、副隊長達が一生懸命考えたことだし、隊員も誉れのように歌うから、僕が笑うなんてできなくて。友人に言おうにも、隊長という立場を考えたらそんな軽はずみな言動はできません。だから、頑張って堪えてたんですけど…」 そこで、高城は再び吹き出した。 「緑川くん、顔に出過ぎです。最初から引いてるのバレバレですよ」 (ですよね…) 紅太郎は流石に情けなくなり、頬をかいた。 『ごめんなさい』 素直に謝ると、高城が首を振る。 「いえ、責めてる訳ではなくて」 それから、高城がふわりと笑ってみせた。 「今まで色んな人にこうして案内してきましたが、軍隊のような制度には抵抗があっても、その熱意の凄さに抵抗を感じる人はいませんでした。だから、新鮮なんです」 そして、もう一度手を差し出された。 「僕も、ちょっと行き過ぎた隊の姿に引き気味だったんです。まあ、大切なことに変わりはありませんが。それを、笑って共有できる人に出会えたことが純粋に嬉しいです」 誘われるように手を握ると、今度は力強く握られる。 「僕たち綾瀬鷹弘生徒会長親衛隊は、緑川紅太郎くんを歓迎します」 先ほどとは違う言葉の重さと熱に、紅太郎の胸にも熱いものが宿った。 そして、高城と一緒に笑い合ったのだった。 その夜食堂で煉に出会った鷹弘は、その機嫌の良さに眉を寄せた。 昨日キツい言い方をしたことが気にかかっていたが、鷹弘の姿を見つけた煉は笑顔で挨拶してきた。 「鷹弘様、今帰りですか?」 そう言う煉は今来たところのようだ。 「ああ。…ごきげんだね、何かあったの?」 尋ねると、煉は首を傾げた。 「え?特になにも」 そう言いつつも、表情は終始笑顔だった。 鷹弘が内心首を傾げていると、煉が思い出したように手を合わせる。 「あ、そうです。今日、言われた通り、親衛隊に招待しましたよ」 「そうか、ありがとう……」 言い終わると同時に、鷹弘は目を瞬かせた。 煉がおかしそうにクスクス笑い出したからだ。 「どうかした?」 人目があるので、鷹弘は丁寧に尋ねる。 すると、煉は楽しそうに言った。 「いえ、彼は面白い人ですね。はじめは気が進みませんでしたが、気に入りました」 その言葉に、鷹弘は仰天した。 煉は元々、人と関わりすぎることを嫌う者だ。 社交性はあるが、一定距離以上は近づかせないバリアがある。 そして、そのバリアの中に入れるのは容易ではなく、実際に入れた者は数少ない。 そんな煉が、笑顔で他人を褒めている。 それも今日会ったばかりで、悪印象だった者を相手に、だ。 鷹弘は信じられない気持ちで煉を見つめた。 (何者だ、あいつは…) 滅多に心を開かない煉の壁を、あっさりと取り去ってしまった。 監視カメラの件もそうだが、やはりただ者ではない。 鷹弘はそう確信した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |