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君の声が聴きたい
13

何やら他人ごとのような言い方をする高城を、紅太郎は不思議に思った。

『高城さんのやり方は試さないんですか?』

何やら副隊長らの言いなりで、高城の意志がここにはないように思えた。

軍隊のように統べる親衛隊を受け入れてはいるが、それが完璧だと思っているようには見えない。

携帯画面を見た高城は驚いたようだった。

少し立ち入りすぎたかと、紅太郎は早くも後悔する。

しかし、高城の答えはあっさりしたものだった。

「もう試してます」

紅太郎が顔をあげると、涼しげな目と視線が合った。

「僕は、皆の意見や要望をまとめて、実現することが自分の役割だと思っています。親衛隊は隊員の総意のもとに動くものであって、僕のものではないからです」

その答えに、紅太郎は目を見開いた。

それはまるで、全校生徒をまとめる会長のような役割だった。

「さっき学園のためと言いましたけど、実際は皆会長のことしか見えていないんです。そんな真っ直ぐな子たちが会長のために何かしたいと一生懸命考えたことです。それを良心的な範囲で実現することが、僕の試したいことであり、僕なりのトップとしての責任だと思っています」

紅太郎よりも背が小さく華奢な姿に、いつの間にか頼りなさや、元恋人だから持ち上げられた形だけのトップなのではないかという疑念を感じていたのかもしれない。

しかし紅太郎はその答えを聞いて、やはり親衛隊を仕切っているのはこの人なのだと理解した。

形だけなんてとんでもない。

隊を背負いながら微笑む姿を、紅太郎は改めて綺麗だと思った。

「さんびゃくじゅうななァッ!」

その声に、紅太郎はハッとして階下を見る。

やっと出席をとり終わったようだ。

というか、出席だけで30分かかっているが、これでいいのだろうか。

恐らく一回一回出席をとることで隊の一員だという自覚と隊の結束を促すと共に、規律に反する行動を抑制する意味もあるのだろう。

しかし、声が出ない紅太郎はいかにして出席をくぐり抜ければいいのやら悩んでいると、高城が小さなおもちゃを差し出してきた。

真ん中に大きなボタンがあり、後ろにスピーカーがある。

「押してみてください」

言われるままに押すと、「さんびゃくじゅうはちィ!」という爆音が響き渡った。

「副隊長の声を録音したものです。これから出席にはこれを使ってください」

(抜かりないな…)

紅太郎は高城の気遣いに舌を巻き、ありがたく受け取った。

すると、階下から再び副隊長の号令が響く。

「隊歌斉唱ォ――――ッ」

紅太郎がポカンと見下ろしていると、高城がまた恥いるように額に手を当てた。

「これも……一応止めはしたんですが」

何しろ熱意がすごくて…と、高城は苦笑した。

♪太陽のようにまばゆい笑顔
 深海のように静かな瞳
 大地を震わすその采配
 神を射落とすその美貌
 学園の希望 我らが明星
 あなたのためならどこまでも
 お仕えしましょう我らが主
 お守りしましょう我らが主
 ああ 生徒会長 綾瀬鷹弘さま
 ああ 生徒会長 綾瀬鷹弘さま


斉唱中、舞台にタペストリーが下ろされた。

それは会長の笑顔の肖像画で、隊員はそれに向かって思い思いに歌っていた。

ある者は胸に手を当てながら、ある者は号泣しながらも、力の限り声を張っている。

(………………)

紅太郎が何も言えないでいると、高城が解説をしてくれた。

「作詞作曲は全て隊員です」

(いや、そこじゃなくて…)

解説してほしいのはこの異様な状況だ。

今から戦場へ赴くのかというような熱気に、紅太郎は泣きたいような笑いたいような気分にさせられた。

確かに歌は素晴らしい出来だ。

メロディーが耳に焼き付いて離れない。

しかし、紅太郎は感動するどころではなく、むしろ吹き出すのを堪えようと必死だった。

もうこれは親衛隊を越えている。

(なんか、尊敬を通り越して崇拝の対象なんだな)

そうなれば綾瀬教だろうか。

堪えようとすればするほど強くなる笑いの発作に、紅太郎はただ肩を震わせて耐えていた。

「……緑川くん、もしかして笑ってます?」

訝しげに問われ、紅太郎は慌てて敬礼をした。

すでにテンションがおかしくなっていることに本人だけが気づいていない。

『笑ってません』

携帯画面でも伝え、死に物狂いで真顔になるが、口の端は歪み、指先も震えている。

どうにも締まらない紅太郎の姿に、高城が眉根を寄せた。

やばい。

そう思って目を瞑った時、高城が目の前で大きく吹き出した。


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