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君の声が聴きたい
9

「煉、1人紹介したい子がいるんだけど」

珍しくお呼びがかかり、親衛隊長の煉は鷹弘と共に食堂の席についていた。

出てきたソテーをナイフで切り分けていた煉は、手を止めて鷹弘を見る。

「紹介?」

何事かと思えば、親衛隊の話だったようだ。

煉が首を傾げると、鷹弘がおかしそうに言う。

「昨日屋上に来た時、一緒にいた子がいただろう。あの子が、俺の親衛隊に入りたいみたいなんだ」

鷹弘が一人称に俺を使うのは、気を許したごくわずかの人間だけだ。

親衛隊で聞けるのは煉だけであるため、ホッと胸が温まるのを感じる。

しかしそれをおくびにも出さず、煉は淡々と返答した。

「親衛隊で抜け駆けは御法度です。屋上に鷹弘様を呼び出した者を入れろと?」

「まあまあ、そんなこと言わずに」

鷹弘は苦笑しながら煉をなだめる。

「彼は外部生で、何かとここのルールに疎いんだ。あの時も、俺に直接親衛隊に入りたいと交渉してきたんだよ」

鷹弘がさらりと嘘をついたことには気づかず、煉は黙って切り分けたソテーを口に入れた。

「こんなことを頼めるのは煉しかいないんだ。俺に免じて、頼むよ」

少し申し訳なさそうに笑う鷹弘を、煉は恨めしげに上目遣いで睨む。

「……まあ、鷹弘様がそこまで言うなら…」

折れた煉の言葉に、鷹弘は嬉しそうに笑った。

「煉ならそう言ってくれると思ったよ」

鷹弘はどう言えば煉が動くのか分かっている。

(それなのに、今でも鷹弘の言葉に一喜一憂してしまう僕は、愚かだ……)

「全く、鷹弘さんは調子が良いですね」

頬を赤く染めた煉は、つい鷹弘を昔の呼び名で呼んでしまった。

「煉」

すると、先程までの空気とは一変して鷹弘は真剣な表情になる。

煉はピクリと肩を揺らした。

「その呼び方は駄目だと言ったはずだ。気を抜くと出るね」

「……すみません」

「気をつけて」

それから鷹弘は黙々と食事を進め、綺麗に平らげる。

「じゃあ、よろしくね」

急に冷たくなった鷹弘が席を立とうとした。

「あの」

煉はつい引き止める。

ここは一般生徒は立ち入れないスペースなので、余程大きな声を出さなければ他の生徒に届くことはない。

「なに?」

鷹弘が立ち止まってくれたことに安堵しながら、煉は視線を下げた。

「……また前みたいにすることは、無理ですか」

煉のただならぬ雰囲気を察したのか、鷹弘は溜め息をつきながら席に着く。

「何度も説明しただろう」

突き放した言葉に、煉は顔が上げられなくなった。

「会長になるからには、中途半端ではいられない。学園の生徒である煉とは付き合えない」

鷹弘が会長になる前に告げられた言葉を再び伝えられる。

「それに、俺たちは元々そういうのじゃないだろう。良い相手なら周りにゴロゴロいるはずだ。煉も、そろそろ俺以外に目を向けないと」

宥めるように言われ、煉はキュッと唇を噛み締めた。

(そう思っていたのは、あなただけです…)

鷹弘の言う“そういうの”とは、普通の恋人同士のことである。

元々、提案をしたのは煉だった。

中等部で遊びまくっていた鷹弘に、煉が先に近づいた。

隣に居られれば、2人の関係の名称などどうでもよかった。

だから、言ったのだ。

自分だけにしろと。

正直、鷹弘が了承するとは思っていなかった。

だから、自惚れていたのだ。

鷹弘も同じ気持ちだと。

だが、実際は違っていた。

鷹弘の別れはあっさりしたものだった。

縋っては、遠ざけられると思った。

だから、煉は納得したふりをしたのだ。

「親衛隊長を引き受けてくれたことは助かってる。でも、煉とそういうことをするつもりはもうないよ」

はっきり拒絶され、煉はぎゅっと目を瞑る。

次に目を開けた時、煉はいつもの微笑みを浮かべていた。

「はい、分かっています。少し言ってみただけです。お時間をとらせてすみませんでした」

その様子を、鷹弘は黙って見ていた。

しかしすぐに切り上げるように席を立つ。

「そうか」

そして、離れる前に優しい手が頭を撫でた。

「ごめん。でも、煉は大切な仲間だから、分かってほしい」

そうやっていつも、優しい言葉で煉を遠ざける。

煉は弱々しく微笑みながら、「大丈夫ですよ」と頷いた。

(でも、僕が欲しいのはそんな言葉じゃない)

鷹弘は分かっているはずだ。

煉がどんな関係を望んでいるかくらい。

だが、鷹弘と離れるくらいなら、納得したふりをしてこの関係に甘んじてでも側にいたかった。

(きっと、鷹弘さんは誰も選ばない)

だからこそ、なんとか煉も正気を保っていられる。

それなら、一番近い席に座ることで十分だと言うしかない。

遠ざかる鷹弘を眺めながら、煉は何度も自分を納得させていた。

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あきゅろす。
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