□■katsuragi×Dream めれんげどりーむ<3> 『カツラギさん、行ってきます』 アヤナミ様から言われたとおり、カツラギさんへ挨拶をした。 ふわり。 カツラギさんの大きな手が俺の頭を撫でてくれる。 「ミズキ、気をつけていってらっしゃい。あなたがここへ来てからはじめての任務です。気を引き締めていつも以上の成果を挙げてごらんなさい」 『はい、では行って来ます。たぶんお昼には戻ってこれるかも、です』 にっこりと微笑むカツラギさんにちゃんと行ってきますをして、俺は任務へ赴いた。 さぁ、今日もがんばろう。 たくさん働いてカツラギさんとアヤナミ様のお役に立つんだ!! あれからホークザイルを飛ばして1時間。 目的地までは何の問題も無く到着。1区の外れにある別荘でのんびり休暇を楽しんでいる諜報部の一人を殺す。同じ軍の人間なんだけどなにやら不穏な動きがあるみたい。たぶん俺がやったってわからせるって事は見せしめかな? 軍に刃向かうとこんな事になっちゃうよって。ブラックホークのメンバーに殺されるって・・・黒法術師の集団を敵に回すって事がどういう事か見せ付けちゃおう。きっと彼の魂は長の元へは行けない。 ・・・・・・・黒法術師では無いけれども・・・・・俺も長の元へは行けないだろうし。 だったら思う存分カツラギさんやアヤナミ様の為に任務を、暗殺を、がんばろう。 俺は、死にたくは無いけれど、どうせなら誰かの役に立って・・・死にたい。 さぁ、はじめようか・・・。 俺は別荘の裏口から侵入した。 (おじゃましまぁす・・・) あっけなかった。 帝国軍の諜報部の人間ならもっと楽しめるかと思ってた。 今までの暗殺の中でも簡単な部類に入ってしまうような任務。目の前にはアヤナミ様から見せて貰った資料に載っていた人間が無残に横たわっている。休暇ということもあってか完全な丸腰だった。刀を一振りするだけでかたがついた。 困ったな・・・どうしよう・・・・・・・。 俺の血液が沸騰する前に終わってしまった。 俺が『静』と称される理由。 それは殺されるかもしれない状況に自らを置いてしまうから。 相手の攻撃をぎりぎりまでかわさずにいる。やれると思った相手のすきを俺が、斬る。 無駄な動きはしない。 派手な立ち回りもしない。 殺されるかもっていう、ぎりぎりの気持ちよさを味わいながら・・・殺す。 それが、今回は何も無かった。 気持ちよくも無い。 全てが終わってしまってから静かに俺の中に湧き上がる血が・・・噴出しそうだ・・・・・・なぁ・・・・。 困ったなあ・・・どうしよう・・・。 座って休憩したら元に戻るかな? 俺は血を静めようと、その場に座り込んだ。 困ったなぁ。今回の任務はこれで終わりだからもう人は斬れないしなぁ。 帰ってからヒュウガさんに手合わせしてもらおうかな・・・。 「ミズキ?」 『カツラギさん???ええええええ???どどどどど、どうして、ここに???』 びっくりした。 カツラギさんが来てくれた!! 嬉しいなって思うけど・・・気配が無かったな。 さすが、カツラギさん!! 「ミズキ、任務ごくろうさまです。迎えに来ましたよ」 『迎えですか?』 カツラギさんは座り込んでいる俺の隣にやってきて頭を撫でてくれる。 「はい。ミズキをアヤナミ様が心配なさって迎えに行くようにと。多分あなたが辛い思いをしているのでは無いかと仰られて・・・・・・当たってしまいましたね・・・。辛いですか?」 『つらい??』 つらいって何が?? 「そうです。ミズキの過去を思えば当然の感情かと思いまして。今日はあっけなく終わってしまったでしょう? もっと斬りたくなっていませんか?」 『え・・・・・・?』 「ヒュウガも同じような体験をしていたようです。それをアヤナミ様が思い出されて・・・。ミズキは今まで士官学校卒業後は軍人として軍に居ましたが・・・実際は奴隷の頃と変わりない任務をこなしてきたでしょう?急に物足りなくなっているのでは無いかと・・・衝動を抑え切れていないのでは無いかと・・・・・・心配になったのですよ」 『ありがとう、ごさいます・・・これを、俺が今感じていることが"つらい"と呼ぶのですか・・・?』 「はい。そうですよ。また一つ覚えましたね。ちょっとは大きくなれたのでは?」 『本当ですか??コナツ君に追いつけますか??』 「ははは。ミズキは本当にいい子ですね。きっとコナツと同じようにいい軍人になれますよ。アヤナミ様も喜ばれる事でしょう」 よかった。アヤナミ様が喜んで下さる。 コナツ君みたいになれる。 なんて考えてたら・・・ カツラギさんが・・・ぎゅーって・・・。 ん? 今から何か格闘技でもするのかな? 『カツラギさん、ここで何か技を教えて下さるのですか?』 「はい?」 『え?え?違いますか?俺、間違ってましたか?あれ?あれれ? だって、カツラギさんがぎゅってしたので・・・・・・寝技か何か教えて下さるのでは?』 またへんな事言っちゃったかなぁ・・・。どうしよう、困った・・・・・・違った、これは辛いって言うんだった。 カツラギさんのぎゅうが強くなった。 お、これは本当に技を教えてくださる? 「本当にミズキは可愛いですね。これは寝技をかけるためでは無くて・・・大好きだって言う感情表現なんですよ」 『大好き??えっ、あっ、えっ!!どうしてですか?何故ですか?』 「そのままの意味ですよ?わかりますか? それはさておき・・・・・・・はいミズキ。これをどうぞ」 カツラギさんが目の前に丸くて棒がついたものを差し出した。 なんだろ、これ? 「ヒュウガからの伝言ですよ。『斬りたくなったら飴がよく効く。今回は特別にあげるよ』だそうです。良かったですね。さあ、召し上がれ」 ぺりりとカツラギさんが包装を破ると中から赤いものが出てきた。 これが『あめ』 斬りたくなったら、あめ。 『いただきます・・・・』 ぱくりと口に入れると、おいしい。 おお、これはおいしい。 「おいしいですか?さて、ミズキは食べながらでいいですから・・・帰りましょうか?」 『ふぁい』 カツラギさんが俺の手を引いて歩く。 んっと、これはなんだろう? 背の高いカツラギさんが俺の手を引っ張って歩いている。 これも大好きなのだろうか? よくわからないけど、辛くなくなったからいいか。 「ミズキ。今日のお昼はオムライスですよ」 『ふぉむらいふ・・・ふぁじめてふぁべまふ』 「それは良かった。またコナツに近づけますよ」 よし!! 今日はたくさん賢くなった。 こまったらつらいで。 ころしたくなったらあめで。 きょうのおひるごはんはおむらいす。 それと・・・・ぎゅーっは・・・大好き・・・・。 俺は今日もカツラギさんのお役に立てましたか? END [*前へ][次へ#] [戻る] |