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【天気雨の恋噺】












将棋を指しているのにも飽き飽きしていたら、不覚にも王手を打たれた。
「また欽十朗の勝ちね」
隣で局面を見守っていた、栗色の髪を肩口で切り揃えた着物姿の美少女が挑発的に言った。もう何百年と存在する刀の鬼だというのに、こういった生意気な所は妙に小娘じみている。
「散漫だぞ、丘山」
低くまろい声で、面白がるように老人が咎める。黒く硬い髪には白いものが混ざり、目尻や手には皺があるが、それでも背筋の真っ直ぐに伸びた、衰えてはいるがまだしっかりと筋肉の付いた体をしているのが、居住まいから伺える。
「全く…君ときたらそんな年になってもまだ負けず嫌いの癖が治らない何て、大人気ないのも大概にしたらどうだい?」
「あら、負けたのはお前よ?狐。負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ」
少女の姿をした鬼、鍔鬼は指先で綾取りをしながら悠々と言ってのける。正論であるからこそ、丘山には反論の余地がない。
「まあ、この所将棋ばかりだったからな。気が詰まるのも無理はない」
擁護する老人、椿欽十朗は穏やかに笑ってみせる。鍔鬼は流石は我が主よとでも言うように、誇らし気な顔をしてみせる。
「全くだよ。こう毎日毎日、辛気臭い倉で布団に浸かったままの老人に付き合っていたら、僕まで窒息しそうだ」
「お黙り、狐。半分はお前の責任でしょう」
眦を釣り上げて、ぴしゃりと言った鍔鬼に対し、欽十朗は苦笑する。
「仕方がない。ああするしか方法がなかった」
と、今はもう動かない右足をさする。
「所で丘山、そんなに暇なら、少し頼まれてくれないか」
と、欽十朗が告げたその頼み事の厄介さに、丘山は思い切り顔をしかめた。












【天気雨の恋噺】











梅花皮町一の旧家、椿家には現在、三世代に渡って武勇を持つ男が居る。
世代で分けると上から順に、欽十朗、鉦雅、鉦唯の三人で、現在は欽十朗が家督を鉦雅に譲り隠居しているが、実際には町の住人や家族は全て欽十朗を頼っているという具合であって、隠居とは言い難い隠居であった。
さて、先述した武勇とは何かというと、先ず当主たる鉦雅から挙げてみると、彼はまだ二十歳にもならぬ内に拳銃を持った、狼藉者――それも酩酊状態の米兵二人――と対峙して見事木刀で騒ぎを収めた。当然、時代が時代であるから国際問題よと騒がれたが、ならば己が手首を切って差し出そうと言った所で事態が終わりを迎えたという次第である。
この話を聞いて梅花皮町の住人は、流石椿家の男児、欽十朗殿が息子よと囃し立てたが、真実、正真正銘凄まじい武勇を誇っているのは誰あろう、最年長の欽十朗であった。
先の大戦に於いて赤紙に呼ばれ、やむなく召集された先では剣の腕を買われ、軍事学校を出た時には既に一等兵であったのが、戦場に送られて直ぐに「かくも戦場とは虚しく、穢れたものであろうとは」と断ずるなり、現地の娘を匿って逃がした上で躊躇う事なく銃で自らの右腿を撃って帰還した。欽十朗がそう言うならばとやり切れぬ思いを抱えていた梅花皮の出身兵他数名も、互いに脚を撃ち抜いて共に強制送還された。非国民よと世間からは蔑まれたが、欽十朗は尚も堂々と振る舞い、終ぞ戦争が終わるまで一切の言葉を濁す事がなかった。梅花皮の住人は少しの失望を覚えながらも、欽十朗がそう言うのならと互いが互いを諫めたような形になったが、終戦の放送があった時からはもう誰も欽十朗を謗る者は居なくなった。
あの時代には何より勇気の要る決断であったろう
と、今だに欽十朗を讃える声は尽きない。故に、当主には代々、椿の苗字に加えて欽十朗の名も継がせようという発想に誰も意義異論を唱えなかったのは無理からぬ話であると言えよう。よって、息子の鉦雅の本名を椿欽十朗鉦雅、孫の鉦唯の本名を椿欽十朗鉦唯と云う。
最後にこの次代の椿たる鉦唯であるが、彼も椿家の例に漏れず、二十二の時に家に入り込んだ空き巣を捕らえるという事を成し遂げている。しかし、人一倍真面目な上に堅物な男であったので、このような事は祖父や父と比べれば些末な事、と切り捨てるような有り様。こんな調子であるからして、二十七にして未だ独り者であった。
「…で、僕にあの堅物をどうにか片付けさせようって魂胆かい?」
「有り体に言えばそういう事だな」
ははは、と無責任に笑う欽十朗に些かの苛立ちを覚えるが、隣で怖い怖い刀の守護が含みのある笑みを浮かべているのだから、口を噤むしかない。
「これは最早、椿家始まって以来の一大事なのよ。椿の男児が齢二十七にして独り身何て…前代未聞だわ。この際、沙紀子のような目と耳を持った、などと贅沢は言わないから、さっさとあの子をそこそこしっかりした娘と結婚させて頂戴」
面白半分にふざけているのかと思いきや、鍔鬼の声は真剣そのもので、理由は下らないと言えば下らないが…丘山はこれが自分の今後を左右する一大事であると悟った。鍔鬼の機嫌を損ねると恐ろしいのは、身に染みて分かっている。
「そんな事を言われても、僕に出来る事などたかが知れているだろう?そもそも、適当な相手が居なくては、ね」
「耳が遅いな丘山。最近、俺を訪ねてある娘さんが来て下さっている」
「ええ、名前は如月都。二十二歳で、大学生。今時珍しい、おっとりしたお嬢さんで博識よ。でも、きちんと芯はある。それに…欽十朗のふぁんなの」
やられた。完璧にやられた。やっぱり共謀していやがった。これだからこの一人と一振りは碌なものじゃない。
横文字の発音が時代錯誤だよ、と皮肉るのも忘れて、丘山はぎりりと奥歯を噛んだ。
「様子を窺ってみれば、鉦唯も都嬢が好きなようだし、丁度良いでしょう」
「丘山、鉦唯はお前のような柔軟さがないから、行って手助けしてくれないか」
「ああ分かったよ、やれば良いんだろう?尤も…責任は取らないけれどね」
これはもう、命令でなくお願いである内に聞いた方が良い内容だなと断じて承諾すると、案の定、にっこりと綺麗に笑った鍔鬼の可憐な唇からとんでもない発言が飛び出した。
「良かったわ。首を縦に振らなければ、お前を女に化けさせて鉦唯に差し出すしかないと思っていたの」




柱時計が三回鳴って、カラカラと扉が軽やかな音を立てて開いた。
「いらっしゃい」
丘山はそう言って、笑顔を作る。
「こんにちは、はじめまして。私、如月都という者で、欽十朗さんに取り次いで欲しいのですが…」
「ああ、欽十朗から話は聞いています。どうぞどうぞ」
如月都は、確かに、今時には珍しくきちんとした生活振りが伺えるような娘だった。見た目も悪くない。目が奥二重なのが少し気になるといえば気になるが、ぱっちりとして愛嬌があるし、鼻や口の大きさも申し分ない。少々平均よりは小柄で、大柄な鉦唯と並ぶと差が激しいだろうが、まあこの際身長程度でつべこべ言っても仕方あるまい。確かに大学に通っているだけあって雰囲気からも教養のあるのが窺えるし、良い所ではあるだろう。
「あの…」
都が訝しむような目を向けてくるので、丘山は意識を会話に引き戻した。
「ああ、僕は欽十朗…いえ欽十朗さんの友人でして、よく将棋を指す為に此方にお邪魔しているのですよ。僕の祖父が欽十朗さんと一緒に第二次世界大戦中、足を撃ち抜いて帰国した縁で…ああ、いけない。申し遅れました。僕は葛丸弥生と云います」
「ああ!そうなんですか…実は私、大学の研究で、戦時下に於ける人々の心理というのをやっていて…それで毎週、火曜日は欽十朗さんにお話を伺っているんです。宜しければ、葛丸さんにもお話を聞いて良いですか?」
「はい、勿論です。その為に欽十朗さんに呼ばれましたから。ささ、どうぞ」
と、丘山が中へと誘うが、都はそわそわと落ち着かない様子だ。
成る程、矢張りこの服装が原因かと思って、丘山は軽い語り口で都に話し掛ける。
「僕の服装が気になりますか?」
「えっ、あっ、いえ…そんな…」
「可笑しいでしょう。正直に言って下さい。今時、こんな格好の若者は居ない、ってね」
モダンな縦縞の粋な着物を着崩して、帯をいっそ悪趣味な迄に鮮やかな藍染にして、髪は今時の頭が軽い若者らしく派手な切り方をしている型で、襟足だけが極楽鳥の尾羽根のように長い…丘山はこの格好を中々気に入っていたが、鍔鬼には恐ろしく不評だった。矢張り、都のこの反応からして、まともには見えないのだろうなと判断する。
「いや、欽十朗…じゃない、欽十朗さんが以前、三回連続で負けた時に、お前がそんな格好をしているから気が逸れて負けたんだ。次からは絶対に着物を着て来い、って言われましてね。以来、僕はずっとここに来る時は着物なんです。時々、子供みたいなんですよ、あの人」
「ええっ、そうなんですか?」
ふふっ、と笑う都を尻目に、内心、丘山は様を見ろと言った気持ちだった。多少状況の脚色はしてあるものの、欽十朗がそう言ったのは事実だ。原因は勿論、将棋を打っている間中、丘山が絶えずぐにゃぐにゃと老若男女様々な姿に化けていたからなのだが、これは話さなくとも良い事だ。
「おいおい、お前、如月さんに一体何を吹き込んでいるんだ」
書斎の障子を開けるなり、座椅子に背中をもたれさせた欽十朗が丘山を鷹揚に咎めた。普段、都はここよりも手前の客間かもっと奥の蔵に通されるので、書斎とは予想すらしていなかったのだろう。カッと赤くなって、頭を下げる。
「あっ…す、済みません。私…」
「いや、気にしないで下さい。此奴が悪いのですから」
「酷いですよ、欽十朗さん。本当の事じゃないですか」
少々わざとらしくはあったが、丘山と欽十朗が親しげな雰囲気を出すと、都も安心したようで、そこからは順調に話が進んでいった。
欽十朗は元文学青年だけあって、簡潔に且つ分かり易く、順序立てて語るのを常とする。が、ここに丘山が混じるとそうはいかない。会話の内容を混ぜっ返すは、茶化しに茶化すわで、内容の量や質は普段通りでも、しなくても良い遠回りをするから畢竟、時間が掛かる。
都の方も年が近いと思われる丘山が居て気が楽なのか、すっかり時間を忘れているようだった。
丁度話が途切れた頃には、もうとっぷりと陽が暮れていて、欽十朗はよしよし、と狐の喉を撫でてやりたい気分になった。矢張り俺の眷属は口八丁手八丁、百戦錬磨の名詐欺師だなと、表情に乏しいながらも半分誇らしく、もう半分は尊敬を持ってして、この状況に満足していた。もうそろそろ、夕餉の支度が整って、孫の鉦唯が帰って来る刻限だ。
「お祖父様、只今帰りました」
「ああ、お帰り、鉦唯」
鉦唯はこの次代では生き難いだろうに、何処までも昔気質の男であったから、まず帰宅すると祖父の欽十朗か父の鉦雅に報告するのが習慣となっている。
だからこの時も一声掛けてから障子を開けたのだが、一瞬だけ無表情を崩して目を見開いた。
「そういえば、如月さん、もうこんな時間ですが、ご両親に連絡をした方が良いのでは?」
わざとらしく咳払いをして、欽十朗が紳士然とした態度で言うので、丘山は笑いを堪えるのに精一杯だった。
「ああ、うっかりしていました。電話、お借りしても宜しいですか?」
「鉦唯、電話まで案内して差し上げなさい。それと…如月さん、こんな時間ですから、良ければ夕飯でも食べて行って下さい」
「いえ、そんな…」
「鉦唯、悪いが、架那子さんに二人分余計に支度して貰えないか聞いてきてくれないか」
「はい、分かりました」
鉦唯は淡々とした調子で承諾したが、首を縦に振りつつも、横目でジロリと丘山を見る。あからさまにこの怪しい男は誰だと顔に書いてある。
「ああ、彼は私の友人の孫で、葛丸弥生くんだ。最近、時々将棋の相手をして貰っている」
説明をすると鉦唯も祖父の知人ならばと納得したようで、平静の態度に戻った。
それからは思惑通り順調に事は進んでいって、丘山と欽十朗、それに鉦唯が母にして鉦雅の妻である架那子の誘導の為に食事の時に二人を隣に座らせたりわざわざ話題を振ったりと、中々に良い雰囲気で食事は終わった。
元から鉦唯も都を気にしていたので、それも良かったのだろう。幾分、普段よりも空気が柔らかい。
「では、そろそろ都さんを送ってゆきます。そうだ、葛丸くんは…」
「いえ、僕は欽十朗さんと一局打ってから帰りますので、気にしないで下さい」
気を利かせたらしい丘山の態度に、鉦唯の表情が僅かに柔らかくなるが、狡猾な狐はそれを見逃しはしなかった。




秋の夜はもう冬も近いせいか虫の音もまばらで、どこかうら寂しい。
唯でさえ梅花皮は街灯以外に夜は灯りのない町だ。椿家の場所が、駅のある谷よりも大分離れている為でもあるのだろう。長い年月に角が取れ、丸みを帯びた石段はまるで黄泉の府まで続くのではないかと思う程長くて、都は少し心細くなった。先を歩く鉦唯が終始無言であるのがそれに拍車を掛ける。
実際には鉦唯は都にどう接して良いか分からないが故の態度なのが、何とももどかしい。
「全く、世話が焼けるよ」
草の影から様子を窺っていた丘山はそう言いつつも悪戯の類が大好きな狐であるから、舌なめずりして策略を巡らせる。
久々に本来の姿を取り戻した気分だ。
「さて、こんなものかな?」
姿を変化させた後、手を二、三度開いては握るのを繰り返す。きちんと出来ているかどうかを確認する。
よし。
口角をにたり、引き上げてから糸を繰るように指先を動かすと、都の目の前に青白い狐火が浮かんだ。
ぽつ、ぽつ。ぽつ。ぽつ。
唐突に表れた火は瞬く間に都を取り囲み、火の輪になった。気配で異常を察知した鉦唯が振り向くと同時に、都は悲鳴を上げた。
「きゃあぁああぁあ!!」
正に絹を裂くような声に弾かれるようにして、鉦唯は手にしていた懐中電灯を投げ捨て、すぐさま都の服に引火した炎を消そうと手を伸ばす。だが驚いて尻餅をついた都の服に移る前に炎は消え去り、ただ所在なく差し出された鉦唯の手が虚空を掴むばかりである。
が、それこそが問題だった。その手は、腕は一本ではなかったのだ。
「え?」
「え?」
絶句したのは都で、声を上げたのは鉦唯だった。全く同じ声で、まるで鏡合わせのように互いの姿を見ている。
信じられない事に、都の目の前には椿欽十朗鉦唯その人が、全く同じ姿で二人居た。
都はまたしても悲鳴を上げそうになったが、どうにか堪えて自力で立ち上がった。
「お前は何だ」
「それはこちらの台詞だ」
「まさか…昔から、時折この近くに出るという狐狸の類、か…?」
「いや、そんな話は聞いた事がない。そんな事を言い出すという事は、お前がそれなんだろう」
「悪足掻きは止めろ。正体を表せ、偽物」
「カタリめ。白状するなら今の内だぞ」
右が言えば左が言う。左が言えば右が言う、といった具合で、声もそっくりそのまま同じなので、都には何が何だか、さっぱり分からない。すると案の定、ああだこうだと二人の鉦唯が言い争いを始めて、俄かに夜道が騒がしくなる。
「…如月さん」
「どちらが偽物かわかりますか」
くるり。二人の鉦唯が振り向いて、険しい顔を見せた。が、偽物――つまりは丘山が予想しているよりも遥かにあっさりと、都は答えを言ってのける。
「私から見て、右の鉦唯さんが本物です」
淀みなく言い放った。
ぴんと伸ばされた白魚の指先がこちらを向くよりも前に、丘山はけたけたと笑いながら身を翻し、草むらの中へと飛び込んだ。
ちらりと見えた狐の姿に瞠目する鉦唯をよそに、正解を言い当てた証として、満点の星空にパラパラと雨が降る。
「…如月さん、どうして分かりましたか」
心底驚いた様子で尋ねる鉦唯に、都はにっこりと笑う。
「だって、利き腕が左右逆でしたから。最初、私に腕を伸ばした時に、左手を出した方が本物だと思ったんです」
鉦唯さん、左利きですよね。都が当然のように確認を求める。
「…都さん」
「はい」
「勇気がお有りですね」
「いえ、咄嗟の事でしたから…あ、雨、上がりましたね」
既に落ち着いたのか、殆ど動じていない都に、鉦唯は苦笑する。そこからはぐっと距離が縮まったのか、会話の内容は一風風変わりではあるが和気藹々とした雰囲気になったので、丘山は二人に気付かれないよう、こっそりと椿家に帰った。




この後は実に早い流れであった。
二月もしない内に話が纏まって、両家親族の挨拶と結納を済ませて、椿家で式を執り行い、都の実家近くのホテルで披露宴を行った。
但し、この結婚には速さ以外にも不思議な所が一つあって、結納にも婚儀にも披露宴にも天気雨が降った。新郎新婦は納得しているようではあったが、近所の者があの嫁は狐憑きではと噂したがったのを、欽十朗が「大丈夫です。稲荷に連なる縁組みですから」と説得した。
翌年には待望の第一子が誕生し、しかも跡取りたる男児であったとして、喜びに湧く刀の鬼が居たのは言う迄もない。








「と、いう訳で、僕は君に取っての恩人という訳さ。僕が居なくては、君は生まれてすらいないのだからね」
「つうか、オレは寧ろ曾祖父ちゃんと祖父ちゃんの武勇伝にびっくりした」
自信満々に気取った笑みを浮かべる丘山に対して、鉦継がポテトチップスをばりばりと噛み砕きながら切り捨てた。
「鉦継、おやつを食べるのは良いけれど、あんまり床に零さないで頂戴」
「あ、悪ィ。鍔鬼」
自分を無視してどうでも良い内容の会話を繰り広げる所に、丘山は欽十朗と鉦継の血縁を感じる。とても殺したい。寧ろ頭から食い千切ってやりたい。
「ん、あー、そういや」
「なんだい?」
「いや、昔オフクロに聞いてみたんだよ。何で親父と結婚したのかって。そしたら…」
どうやらこの話題を無視する気はないらしいと知って、丘山はほっとして耳を澄ます。
「本当は、出来たら曾祖父ちゃんと結婚したいと思ってたんだけど、よくよく見てみたら親父も割と見た目が似てるし、想像してたよりも面白かったからとかナントカ言ってた」
「……!?」
「結局、お前の手柄ではなかったわね」
ご愁傷様。
鍔鬼が刺したトドメに、丘山はへなへなとその場にくず折れる。
「欽十朗…僕の人生最大の不幸は矢張り、君に出会った事に違いないよ…」
わいわいと剣術講義を始めた鍔鬼と鉦継の横で、誰に聞かせるでもなく呟いた。









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