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血と死体








恐ろしく美しい夜だった。




「くそっ…!」
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。上がる息。熱く巡る血液とばら色に染まる、普段は青白い肌。長い金の睫は冴え冴えとした月光を冷たく弾く。限りなく銀に近い髪は長く、しかしきっちりと後頭部で編み込まれている。
その、官能的な髪に手を伸ばす。鷲掴む。
振り回される腕。鋭い爪を突き立てようとする指先を、皮膚が裂くよりも早く、止める。手首を捉えて。
「離せっ…!」
ザクッ。自由にさせたままの手に握ったナイフが、金糸を断ち切った。バラバラと解れてゆく。驚きに目を見張る。衝撃を受けて、手が、緩んだ。
いけない。
擦り抜ける。行ってしまう。
「…駄目だ」
行かせない。
一切の手加減無しに、足首を蹴った。ボキン。嫌な感触と共に骨が折れる。細い骨だ頼りない骨格だ。足元から崩れるようにして倒れてゆく。茂る薔薇の枝の中へと沈んでゆく。
ああ、傷だらけだ。
覗き込むと、幾筋もの鉤裂きが真珠の肌に刻まれていた。滴る血は赤く、薄く青い薔薇の花に見事な色の対比を成す。
「ルイ…」
「ぅ、ぐっ、」
体重を掛けて、軋む程強く首を絞めた。
じたばたと手足が死に瀕した蜘蛛のように動いて、ぱたり。脱力した。
ああ、素晴らしい夜だ。詩に残したい位、美しい夜だ。語彙が足りないのが口惜しいのはこんな時だ。目の前に倒れた麗人は、首に付いた痣や唇から垂れる唾液さえ高貴だ。殺したくて、堪らなくなる。
「お前は、此の世で最も美しい吸血鬼だ」








ルイが目覚めたのは、古びた長椅子の上だった。
深紅の天鵞絨は長い年月に色褪せ、荒れた感触だけを肌に残す。しかし、それもシャツとベスト、スラックスの上からでは分からない。緩められたネクタイが首に引っ掛かっているのを知って、ルイは眉根を寄せながら結び直した。
「起きたのか」
今、最も見たくない顔の持ち主が、聞き慣れてしまったバスと共に現れた。
「…俺の靴は」
「脱がせて、そのテーブルの下に置いてある。まだ立つな。足首が折れている」
躊躇なく跪き、男はルイの足を取った。まるで大粒の宝玉でも扱うかのように恭しく両の掌で包み込む。
「触るな」
ガッ。触れられていない足で、ルイは俯いたその顔を蹴った。眼球を潰すようにして踵を食い込ませるが、痛がる様子は全くない。
当然だ。この男、トヨンは――…疾うの昔に、死んでいるのだから。「…暴れるな。傷に障る」
「ッ…誰がっ…」
ガッ。ガッ。ガッ。効かないと解っているのに、何度も何度も渾身の力を込めて、ルイはトヨンの顔を蹴った。逃れようとするのではなく、それは紛れもない反抗心からだった。
「…ルイ」
「いっ…!」
「大人しくしていろ」
溜め息と共に足を捕まって、そのままぞろりと親指を舐められ、歯を立てられる。過去の経験が記憶を掠めて、ルイは身を竦ませた。
嫌だ。嫌だ、もう“噛まれる”のは。
「……」
「よし、良い子だ…」
酷く甘い癖に苦い声がルイの耳を侵す。
トヨンは満足げに微笑すると、下処理をした薬草を足首に張り、丁寧に包帯を巻き始めた。その丁寧さにも嫌悪を覚えて、ルイは目の前にある整った、しかしおぞましい紫に染まった顔を再び蹴りたい衝動に駆られた。
精悍な顔の左半分には、きつく包帯が巻かれ、腐った眼球が落ちるのを防いでいる。露わになった部分の皮膚は白と褐色と紫に斑で、防腐剤をたっぷりと吸った肉を覆っている。本来なら黄色くなっているのだろう歯は、漂白剤のせいで禍々しい迄に白い。漂う筈の腐臭すらも胃酸代わりに納めた脱臭剤で消されている。薬品のせいだろうか、濃い黒の瞳に対し、髪は不自然に色素が抜けて黒の中に灰色が混じる。歳月を重ねても損なわれない巨躯の四肢。異常だ。存在それ自体が。
「…くたばれ、生ゴミ野郎」
生前はさぞかし健康的で好ましい獲物であっただろう死体に、ルイは吐き捨てるように言った。
「ああ、お前が見届けてくれるのなら」
トヨンは淀みなく答えた。
「俺は何時でも、薔薇の肥料になろう」
怪我の手当てが終わって、トヨンは部屋を出て行った。後にはルイだけが残される。一人になった途端、素足を見られたという羞恥と屈辱がせり上がってきて、ルイは痛む足を無視して乱暴に革靴を履いた。
クソっ!クソっ!クソっ…!
苛立ちと怒りに眩暈がするようだった。いっそ殺すなら殺せと言いたかった。憎しみからこんな恥辱を与えるとは、例え一時でも友人と思ってしまった自分の愚かさが悔やまれる。
ルイは誇り高い吸血鬼だった。正統なる血族、真組の末裔にして最後に残ったたった一人だ。血は決して穢されてはならない。血の黄昏に生まれたならば絶えるのが望ましい。そう考えていた。だから、ずっと一人で放浪していた。夜な夜な乙女の鮮血を求め、昼間は深い森の中や打ち捨てられた家の地下で眠った。だが、決まった住居を持たずとも、夜を生きるもの達は皆、真性の貴族、最も旧き夜の血を持つルイに敬意を払った。実際には知らぬ場所よりも、様々な屋敷に客人として招かれる事の方が多い位だった。洗練された仕草や話術は基より、姿形が美しかったのもそれを助ける一因となった。
夜の貴族に相応しく、青白く透けるような肌に、淡い月色の髪、氷のような瞳は鋭く射抜くようで、怜悧な魅力を湛えていた。手足もしなやかに長く細く、だが獲物を狩る為に必要な筋肉は確実に付いていた。
単なる美術品のようなものだけでなく、言うなれば機能美が作用して、不思議な効果を生み出しているのがルイだった。
知人の屋敷に次から次へと招かれるルイは、社交の場に訪れる機会が多い。その時も黒の三つ揃いを着て、用意されたグラスを片手に、人狼の紳士と談笑していた。
所で、ルイは人狼という種族が嫌いだ。差別的思想は特に持ち合わせていないのだが、どうにも歴史の浅い家の人狼は、こちらの家柄と比べて卑屈に出る節がある。堂々としていれば良いものを、変に妬みや気使いやらをちらつかせるものだから、気疲れするのだ。この時も終わりが見えない会話に嫌気が差して、風に当たってくると言い訳をしてバルコニーに向かったのだ。
すると、狭い場所に設置されたごく小さな細身のテーブルに、花束が乗っていた。その花束が普通ではなかった。薔薇だけを束ねたそれは、薄いがしかし深みのある、見事な青をしていたのだ。
「この薔薇は?」
思わず人狼の紳士に訊ねると「ああそれは近くに住む“腐りかけ”が育てているものでして。一応は成り上がりとはいえ土地持ちなので招待しているという訳でして…大方、来てすぐにそれを置いて帰っていったのでしょう」まぁ、安心して下さい。流石に腐臭はしませんでしょうから。人狼がそう言うと、俄かに笑いの波が起きた。嘲笑混じりのそれは、低俗な差別意識からだ。
“腐りかけ”とは、アンデッドを謗る時に使われる蔑称だ。悪臭や腐汁を撒き散らすから、というのもあるが、何よりも彼らが元は人間であった上に、非常に朽ち易いが故に、アンデッドは他の種族から見下される事が多い。確かに、防腐処置をきちんと施していなかったせいで脳が腐り、まともに動けすらしない者が居るのは認めるが、それでも理由なく蔑みを浴びせる理由にはならない。そして、少なくともこの薔薇を持ってきた者は薔薇の栽培が可能な知識を備えていて、会場の流れを読んで退散するだけの判断力がある。
俄かに、この薔薇を作ったアンデッドに興味が湧いた。
翌日になり、ルイは早速手紙を書いて送った。夜に棲む者で、最高の貴族たる真祖の滞在を断るのは名折れ。案の定、二日後には承諾の返事が届き、ルイは反りの合わない人狼の屋敷を後にした。
「お待ちしておりました、ルイ様」
鉄の門を開けて出迎えたのは、酷く表情に乏しい、大柄なアンデッドだった。来客を歓迎していないのが見て取れる。
「無理を言って申し訳ない。トヨン卿、感謝する」
「はい。いや、いえ…禄な持て成しも出来ませんが、どうぞお寛ぎ下さい」
「無理をしなくても良い。都合が悪いようなら他を当たろう」
「いえ、そういう事ではありません」
断言するトヨンに、ルイは首を傾げる。
「この屋敷はただ残していただけなので、生きている方の為には何一つとして整備がされていません」
余りにも真剣な表情で言うトヨンに度肝を抜かれて、絶句してしまう。が、それは数秒と続かなかった。
「ふっ…ははっ!」
「何か」
「いや、いい。吸血鬼も半分は生き物ではない。寝床と血液さえあれば、問題はない」
「そうですか。血液は既に手配してあります」
これにもまた柄にもなく笑ってしまって、ルイは腹を抱えそうになった。
こうして始まった青薔薇屋敷での生活は存外、ルイに取って快適なものであった。屋敷の老朽化と調度品の埃っぽいのは確かに難だが、当座の同居人であるトヨンについては非常に楽な相手だった。元から無駄口を叩くような男ではないし、消臭剤を使っているのかアンデッド特有の悪臭も無かった。更に素晴らしい事には、トヨンは優れた頭脳の持ち主であり、チェスもそれなりに嗜んでいた。ルイの趣味の一つにチェスがあったものだから、これはとても良い事だった。チェスを何度もする内に他人行儀であった態度は砕け、丁寧な口調は崩れ、気付けば往年の悪友が如く遠慮のない間柄になっていた。一緒に居てこうまで楽な相手は他に居なかった。通常なら長く滞在しても精々が二カ月だった所をつい半年も居着いてしまった。
だから、切り出したのだ。
「明日にはここを出て行く」と。
だが、口にした途端、トヨンはルイを裏切った。気心の知れた相手と安心し切っていたルイの腕を捻上げて、喉元に噛み付いたのだ。
アンデッドが忌避される原因の一つに、強い毒性がある。歯にしかない神経毒で、噛まれた者は全身が硬直し、痙攣を繰り返して死に至る。人間は勿論、頑強さが取り柄の人狼すら殺す毒だ。真祖であるルイであればこそ死には至らないが、どちらにしろ毒であるのは間違いない。
…――何故だ。
先ず頭に浮かんだのは単純な疑問と驚きだった。薄れゆく意識の中、不吉な拍動を繰り返す気管支の震えを感じながら、ひたすら霞む目で友人を見据えた。
だが、ルイはもう一度トヨンに裏切られた。目覚めた時にはもう、以前のような不器用な朗らかさはトヨンから消え失せ、淡々とルイの手当てをして一方的に指示を出した。異論を唱えても聞き入れられはしなかった。「どうかしている!お前は今普通じゃないんだ!」叫んでも返事はない。強行手段に出ようとしても、力ではトヨンに適わない。ルイは真祖である自分よりも、一介の死体でしかないトヨンの方が力が強いと知って、愕然とした。半年間生活を共にしてきたというのに、そんな気配は微塵も感じなかったからだ。
「ひっ、はっ…!ひっ…!」
何度も繰り返す内に、トヨンはルイが逃げようとすると決まって噛み付くようになった。実際、己が吸血鬼、即ち牙を立て搾取する存在であるルイに取って、友人とはいえ元人間に噛まれ、為す術もなく引きずられるのは汚辱でしかなかった。




そして今日もまた、失敗した。




「ちくしょう…」
椅子の上に置かれた、嘗て三つ揃いであった上着は既に、襤褸と化していた。
もうこの場所に拘束されて一年以上になる。このまま抵抗を続ければ、あの上着と同じような運命を辿るだろう。諦めようか?弱さがそう囁くが、ルイ自身が妥協を許さない。魂の芯から、服従を拒絶する。
なら、いっそここで果ててしまおうか?
もう策は出尽くした。この体には、毒の恐怖が植え付けられている。許せない。許せない。許せない。自分の精神が。だから、もう、これ以上グズグズに崩れる事のないように、終わろうか。
ガシャン。
小さく、本当に小さく耳に響いただけだった。にも関わらず体は弾かれるようにルイの居る部屋へと向かっていた。
「ルイ!」
駆け付けると、ルイが、陶器の破片をずぷずぷと喉に沈めている最中だった。花瓶を叩き割ってナイフ替わりにしたのだろう。
「止めろ!」
ルイの腕を掴んで、無理矢理破片を引き抜く。幸い食道には達していない。激昂した、激しい青が射抜くように睨め付けてくる。全身全霊で、拒絶している。
手加減が、出来ない。
「ルイ!」
ゴキン。
ルイの手首が折れた。両手が使えないと瞬時に判断して、舌を噛もうとする。指を突っ込んで止める。食い千切られそうだ。
ガッ。もう片手で首に手刀を食らわせて気絶させようとするが、避けられる。
「殺せ!」
絶叫に似た咆哮だった。
「殺せ!お前に飼われる位なら、」
「ルイ…」
「死んだ方がマシだ!」
吐き捨てて、離れる。腕を振り払って、満身創痍の姿でも尚、強く美しい吸血鬼を見る。まだ折れない。誇り高い。
「…お前を」
「ッ、」
「外に、出したくなかった…」
手を伸ばす。触れようとした頬は一歩、後ずさる。
「く、るな…」
「ルイ」
直ぐによろめく体は壁際に追い詰められて、見開いた目は酷く澄んでいてまるで無垢な子供のようだ。小さい頭だ。長い手足だ。まるで、少年のように細い体だ。
「お前が欲しい」
険のある顔立ち。滑らかな頬の感触は確かに女のもので。
甘さのない顔立ちと体つきだ。だが、見る者には確実に女を感じさせる美貌。その疑念を、立ち居振る舞いと装い、口から発せられる論理的な内容がそれを否定させる。彼女を構成する要素の中に女性的なものは極めて少ない。トヨンも、親交を深めるまではルイを男だと思っていた。気付いた時にはもう、性別などどちらでも良くなっていたのだけれど。
ルイが女だという事実は然し、トヨンの欲望を喚起させた。
血液を与えて養い、この場所から一歩も出さずにおく幸せと、この手で愛しいものを拘束する充足とを知ってしまった。手を離してしまえばきっと、ルイは二度と戻っては来ない。何故ならそれが夜総てに愛される彼女の宿命だからだ。彼方へ此方へと招かれる侭に流れゆく、自由な、その、孤高の。
トヨンはそれに付いて行けない。真祖の寿命は果てしないが、幾ら防腐処置を施した所で既に心臓が止まった肉体では何時まで耐えられるかなどたかが知れている。死して化け物となりながら、嘗て人であった事が邪魔をする。
「ルイ…」
「っゃ、止めろっ…!」
抱き留めて喉に舌を這わせる。彼女に不快でないように漂白剤で磨いた歯と、胃で揺れる多量の脱臭剤。我ながら滑稽だと思う。こんな瑣末な、卑屈な行動で彼女の愛が買える訳ではないのに。
「嫌だ…」
弱々しく届くのは、彼女の声ではないようだった。
スラックスからシャツの裾を抜き出し、ベストの釦を片手で素早く外す。すべすべとした腹に触れると、背中が跳ねた。
「トヨンっ…!」
ルイが折れた手をがむしゃらに使って、胸を押し返そうとしてくる。何百日振りかに名を呼ばれて、理性が切れた。明らかに拒絶の音だというのに。
本当に滑稽で惨めだ。
死体の癖に欲情する何て。













食事以外で見る血が肌を伝っていった。
折れた腕と足は骨の不具合以上の理由で鉛となった。
冷えた肌に対して、胸の奥だけが酷く熱い。
気怠い癖に、意識だけが冴え冴えとして、不快だった。
「ルイ」
何時までも硬直したように覆い被さる男が名を呼んだ。
「ルイ」
「黙れ」
祈るような目で名前を呼ばれるのが嫌で、重い腕を動かして顔を隠した。咎めると静かになったが、それがまたルイを苛付かせた。理由は判らない。
「…トヨン」
間を置いて、男の名前を呼んだ。掠れた声だった。散々声を上げたせいだ。トヨンが律儀に、一言一句漏らすまいと耳を近付けるのが気配で分かった。
「疲れた…」
「ああ」
「眠りたい」
「ああ」
少しの浮遊感。抱き上げられる。背中と膝裏とに冷え冷えとした堅い腕の感触がある。昔に体温が失われた腕だ。テンポ良く微かな揺れがあって、ベッドに横たえられる。大腿を伝う血が布で拭われて、ついでに折れたままぶら下がるように無様な手首を処置される。壮絶な倦怠感に目蓋を上げるのすら億劫で、ただ身を委ねた。昨日までと同じように、触れる手付きは恭しい。
「…お前が、」
シーツが掛けられたと同時に、口を開く。
「嫌だった訳じゃない。ただ、こんな事はしたくなかった」
質問を聞くよりも早く、答えを出す。
「俺の血は絶えるべきだ」
だから誰も愛さない。この血を貶めさせはしない。相手を取るか取らないかの選択権を得る為に、黒の三つ揃いを着て生きてきた。凡そ柔らかさのない体も味方した。繁殖という畜生のような理由に生きたくはなかった。単純なプライドだけでなく、それが自分の血族の在り方に反すると考えたからだ。
「なら、ルイ、俺にお前の子供をくれ。絶対に、育ち切る迄にこの手で殺す。だから、お前の一部を俺にくれないか。一時だけで構わない」
ああ、嘘だ。だが、本当だ。知っている。トヨンは約束を破るような男ではない。きっと子供をやったとして、その子が成長し切る迄には自分で殺すだろう。例えどんなに悲しくとも。血の涙を流す程胸が痛もうとも。
だけど、トヨンには殺せても、きっと俺には殺せない。必ず情が移る。子供を殺そうとするトヨンをきっと、命懸けで止めてしまう。想像しただけで涙が出そうだ。
認めたくなかった。俺は、芯からこの男が好きなんだ。
「…わかった」
駄目だ。承諾、したら。もう逃げられなくなる。俺が俺でなくなってしまう。
「トヨン、お前に俺の子供を、やる」
頭とは裏腹に気持ちだけが先走って止まらなかった。駄目だ。間違っている。低俗なエゴイズムで血を残すなど。吸血鬼と半死者の混血児など。父親の手から逃れた所で生きるのはきっと苦痛になる。
でも、
「ルイ、お前を愛している」
氷のような体温と共に、低くも甘い声が耳元に降ってきた。腕が回される。二人分の体重を受けてスプリングが軋む。
本当なら、この愛おしくも堅牢な檻から逃れられない俺が、殺されるべきなのだろう。薔薇の下に埋められるのは、一人だけで充分だ。






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