29 翌朝。痛む体に鞭打って政務をこなすフィデル。心なしか弱っているその様子に、ケーニッヒはふと気づいた。 「フィデル。具合でも悪いのか」 「…!」 憂鬱そうな表情を慌てて隠したフィデルは、いえ、と首を振った。 「そのようなことは」 「……そうか」 怪訝そうに頷いたケーニッヒは、そのまま廊下を進んでいく。その後ろ姿を見送り、フィデルは安堵の溜め息を吐いた。 「……今夜は、大丈夫だろうか…」 自室へ戻ると、自らが片付けた寝具が目に入る。昨晩のことを思い出し、不意に背筋に悪寒が走った。 「…………何故、あんなことを…」 押し殺したような溜め息が漏れる。テーブルに書類を置けば、ズキンと響く腰の痛みに顔をしかめた。 「…失礼します」 ケーニッヒの寝室へ訪れる。寝室前で待っていたのがグリューネ…つまり、昨晩の蛮行に及ばなかった一人…であったことが、唯一の助けであった。 「やはり、今日のお前は様子がおかしい」 「え?」 開口一番、そう言ったケーニッヒはフィデルを抱き寄せ。体格差の故にすっぽりと腕へ収まったフィデルを、どこか案じるように見下ろした。 「何か悪い物を食べたか、体を冷やしたか」 暫しケーニッヒを見上げていたフィデルは、口を開こうとして表情を歪め、そのまま俯いた。 「……いえ。大丈夫です」 「私に嘘を吐くのか?」 「…………」 「……そうか。わかった」 フィデルの体を寝台へ横たえると、自分はそこを降り離れた。不思議そうにその様子を見ていたフィデルは、何やらを探していたケーニッヒが戻ってくるのを見て、小さく悲鳴をあげた。 「本当は私の腕だけでも、十分なのだがな」 鉄でできた枷を、恐怖に竦んだフィデルの右手首に嵌める。寝台の柵に鎖を通したところで、フィデルは声をあげた。 「ケーニッヒ様、ッ」 「なんだ」 「……いったい、何を」 「…素直になる魔術だ」 苦々しく笑み、ケーニッヒは柵に絡めた枷の他方をフィデルの左手首に嵌めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |