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「……私がまだアインスと呼ばれていた頃」
唇を拭い、ケーニッヒはそう口を切った。
「順当にいけば、王位は私が継ぐと定められていた……世界中がそうであるように。だが私は、王位を弟に譲ることを考えていた。初めてそれを打ち明けたのは、父…つまり前ケーニッヒ国王だ」
既にワインのアルコールが回りきったか、フィデルは耐えるように唇を噛みしめながらケーニッヒを見つめていた。
「自由を望んでいた、という私情も無論あった。だが寧ろ…王に相応しい能力と品格、機知を備えているのは私よりツヴァイ。我が弟だと思っていたのだ」
ケーニッヒが手を伸ばし軽く頬をなぞれば、フィデルは快楽と苦悶で甘やかに泣いた。
「圧倒的な天性の差。当たり前だが、弟が兄を超えるなぞありふれた話だ。…父は理解を示してくれた。私の言い分を繰り返し聞き、そうしてやがて受け入れてくれた」
涙の浮かぶ眦に指を這わせ、そのまま項へ滑らす。引きつった悲鳴を微かにあげ、強く目を瞑るフィデル。
「……だが母は、その時既に私が王になることを望んでいた」
ケーニッヒの手が止まる。怒りか、悲しみか、震える指先。顔を埋めるように、耳元へ口を寄せた。
「あれは、権力にしか興味のない女だった」
低い声が響く。フィデルが幽かに裏返った悲鳴を上げる。泣きそうな程に蕩けた表情、ケーニッヒが耳にそっと舌を這わせた。
「は、あ、あああ…ッ!」
「フィデル。最初に動いたのは誰だと思う」
涙を浮かべながら、答えを考え押し黙るフィデル。
「……母上、様がッ」
「違う。弟を支持していた、とある家臣だ。彼は真っ先に母の策謀に感づいた。そして先手を取ろうと、私の命を狙った」





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