60 ケーニッヒが膝をついてしゃがみ込むと、フィデルはもう一度まっすぐにケーニッヒを見つめた。 「……そんなものを、知って。何になる」 「…ケーニッヒ様の抱く痛みを、私も理解し、共有すべきだと思うのです…その上で、敢えて何かを進言すべきと…」 「…………」 無言のまま暫しフィデルを見ていたケーニッヒは、突如としてその体を横抱きに抱き上げた。驚きはするも、されるがままに身を縮こめるフィデル。寝台へ寝かせたかと思うと、その傍らに置かれた鉄枷を取り上げ。 「いつかと同じだ。お前が今日のことを話さなければ、使うつもりだったが」 さっ、と色を失うフィデル。そのまま乱暴に腕を掴むと、有無を言わさず寝台の柵へとその体を繋いだ。 「予定を変えよう。私の話を最後まで、聞いていられるか」 「…ケーニッヒ様ッ、な、何を」 「簡単なことだ。文字通りの酔狂で、話してやる」 そう言うと、テーブルのワインボトルを引ったくるケーニッヒ。口を開けろと命じれば、泣きそうな目でケーニッヒを見上げたフィデルは震える唇をそっと開いた。 「…んぐ、く…う」 ねじ込まれたボトルの口から、無慈悲に流れ込む赤紫。やっとの思いで飲み下しながら、頬には生理的な涙が流れた。空になる前に離れたボトル。ケーニッヒがその残りを一息に飲み尽くすと、酔いに浮かされるフィデルの唇へと食らいついた。 長い長い口付け。空気を奪い尽くされたフィデルは、ケーニッヒが離れるなり激しく咳き込んだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |