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「ん、ぅ…んん、んっ!」
カルテ国の地下牢。フィデルが暴れる度に、その腕を拘束する鉄鎖は喧しい音を立てた。舌を噛み切らぬようにと咬まされた轡の奥から、言葉にならない呻きが漏れる。
「大人しくしていろ」
そう言い捨てた牢番が、階段を下りる音を聞き姿勢を正す。
二人の家臣を引き連れてやってきたのは、このカルテ国の国王であるケーニッヒ。最敬礼をした牢番を一瞥すると、鉄格子の向こうへ目を向け深い笑みを湛えた。
「…戦の結果が知りたいか?」
カシャ、と鉄鎖が震える。目を見開いたフィデルに、ケーニッヒは口の端を吊り上げた。
「我がカルテ国の大勝だ。パルフェ国は滅び、宮殿の人間も一人残らず死んだ。民は殆どが戦死し、残りはカルテの捕虜になっている。本来ならば、鏖にするところなのだが…」
「ん、んっ、んん!」
鉄鎖を鳴らしながら、必死に声を上げ訴えるフィデル。ケーニッヒは懐から鍵を取り出すと、牢を開けフィデルへ歩み寄った。
「一つだけ、生き残りの民を救う方法がある」
「んッ…!」
言いながらフィデルの顎を掴み顔を引き寄せると、ケーニッヒは目を細めて薄く笑った。
「私の家臣になれ、フィデル」
「ん…っ」
「それが出来ぬのなら、奴らは全員処刑だ」
轡を外し、声を出そうとしたフィデルの唇に自らのそれを重ねた。鉄鎖の音が、激しくなる。
「……それからもう一つ。私の、夜伽をしろ」
「…っ、はぁッ………な、なん…だ、と」
「私の夜の相手をしろと言ったのだ。心も体も全て、私に捧げろ」
その申し出に、色を失い絶句するフィデル。ケーニッヒは尚も、愉悦に顔を歪めていた。
「………ぐ…っ」
「パルフェの民を救いたいのだろう?」
「……う…」
ケーニッヒの言葉に後押しされ、フィデルはゆっくりと膝をついた。
「…っ、か…畏まり、ました」
「では今日から、お前は我がカルテ国の家臣だ。…安心しろ。パルフェの遺民は、我が国の民としてカルテに住まわせてやる」
それだけ言い終えると、ケーニッヒは早々に踵を返した。その背後で、鉄鎖がじゃらりと鳴った。





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あきゅろす。
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