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ベゾンダは立ち上がると、戸棚を開け小さな箱を取り出した。
「これは、ケーニッヒ様がくださった指輪です」
テーブルに置かれた箱から覗く、宝石の煌めきはそれが如何に高価であるかを物語っていた。
「結婚をした時、私にこれを渡してくださいました。そして、三人目の子供が産まれた後…ケーニッヒ様が出された条件に、『城を出るならば、この指輪を買い戻す』というものがありました。指輪の値段を満たすまで、月に一度、私へ一定の金額を払うと」
「……それは、つまり」
「はい。実質的には、私への援助です。王城の暮らしに慣れていた私への、せめてもの配慮だったのでしょう。家族はそれを聞くと、……」
「あなたに、城を出ることを強いたのですね」
「市民にとってみれば、法外な値段です。これをみすみす逃すなんて、と……私にとっては、あの人や子供と離れることと、比べること、など…っ」
恨めしげに、しかし大事そうに指輪の入った箱を見つめるベゾンダ。フィデルも、言葉を探せずにただ俯いていた。
「………母上…」
「…ルビーン。あなたに会えただけでも、今は十分幸せだわ。ねえ、弟達の名前は?皆、仲良くしているの?」
「…一人目の弟はアプフェル、二人目の弟はレーゲン。……アプフェルは、何ヶ月か前に病で死んだよ」
息を呑む音。ベゾンダが、悲しみに褐色の瞳を揺らし声を失うと、アインスはフィデルの方を見やった。
「ねえフィデル。…僕は、きっともうここには来られない。だから、…レーゲンのことは時々、ここに連れてきてほしい」





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あきゅろす。
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