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「…つまり、ベゾンダさん。あなたは我が子の名前も聞かされぬまま産むことだけを求められ、挙げ句城を出されたと」
「……信じてもらえますか」
「……ルビーン様。あなた様の母上のこと、記憶にございますか」
「ない。母上が誰だか、ずっと知らないでいた」
「………ごめんなさい。でも、私には一目でわかったの…」
「ベゾンダさん。私は、あなたの話を信じます」
フィデルがそう言うと、ベゾンダは安心したように顔を綻ばせた。アインスは腑に落ちないといった様子で、フィデルの顔を見上げた。
「どうして、父上は母上をこんなところに?」
遺民街の傍、つまり国の外れ。ベゾンダの暮らす小さな家は、どう考えても王妃に相応しい場所ではなかった。
「悪いのは国王様じゃないの。それはわかってる」
「…どういうことです?」
フィデルが尋ねれば、ベゾンダは忽ち俯いて唇を噛んだ。
「……ケーニッヒ様は、私に二つの選択肢をくださいました。城にいて、あのお方の妻として終生を過ごすか。あるいは、城を出て街に戻るか」
「あなたは、後者を選んだのですか」
「いいえ。…ケーニッヒ様が女を嫌うという話は、娶られる前から知っていた話でした。あのお方は、ちゃんと説明をしてくださった…『お前を愛することのできない私と共にいるか、我が子の元を離れるか』それでも私は、前者を選ぼうとしました」
「……阻まれた、ということですか」
「はい。……私の…家族に、です」





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あきゅろす。
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