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「……え?」
「『認めるのは悔しいが、よく出来た家臣だ』って」
フィデルが驚きに目を丸くすると、アインスはクスクスと笑いながら繋いでいた手を強く握った。
「他の家臣達の立場を考えて、口には出さなかったらしいけど」
「……そう、でしたか」
「父上がお前のこと気に入るのも、わかる気がする」
「…………」
「あの辺りかな」
人通りの少ない道。そこには、手向けられた花が枯れたまま散らばっていた。
「………ああ」
傍らの木が、風に揺れてざわりと音を立てる。そっと花を置き、跪いたアインスは両手を合わせ祈りを捧げた。
「……ズィルバー。僕は、きっと立派な王様になるよ」
ゆっくりと立ち上がる。アインスがフィデルの方を振り返ると、誰かの声が不意に二人の耳へ届いた。
「……ああ…!」
声の主を見やれば、そこには二人を見つめながら立ち尽くす女性の姿があった。
「……フィデル、知り合い?」
「いえ……すみません、失礼ですが」
「ああ…!ああ!」
奇妙な悲鳴をあげ、二人の元へ駆け寄る女性。フィデルは咄嗟にアインスを庇い、しかし目の前に崩れ落ちた女性に目を丸くした。
大粒の涙を零し、しゃくりあげて泣く姿に悲痛さを見出す。アインスの方を一度だけ見てから、フィデルは女性の前に膝をついた。
「もし。どうなさったのです…突然、泣いたりして」
「…貴方は、城の人間でしょうか…!」
涙声で尋ねる女性に、一つ頷く。女性は再び顔をくしゃりと歪めると、フィデルの体に縋った。
「やっぱり……ああ、その子はきっと……私の、息子なんです」





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