52 「ルビーンもか」 ケーニッヒがそう呟く。フィデルは頷いて、そうして頭を下げた。 「どうか、ルビーン様に許可を」 「………同じくしてやりたいのは、山々だが」 頭を抱えたケーニッヒは、アインスを見やると苦しげに一つ唸った。 「何しろ、ルビーンは国の第一王子…次期国王となることも後継の儀で決まっている」 「父上」 アインスが口を開く。二人の視線を受けながら、ゆっくりと言葉を続けた。 「レーゲンみたいに何度も外に出たい、という我が儘は言いません。ただ、……ただ…この花を、ズィルバーに手向けたいのです。一度だけ」 「……花を?」 「私からも、お願い申し上げます」 アインスの手に握られた花を見て、ケーニッヒはすっと目を眇めた。暫し、沈黙が訪れる。 「………今まで、お前が数度外へ出た際の付き添いはズィルバーだったな」 アインスとフィデルが、ゆっくりと顔を上げてケーニッヒを見る。 「フィデル。第一王子の護衛は重いぞ…お前に務まるか」 「……必ずや、全うしてみせます」 膝を付き、恭しく頭を垂れるフィデル。アインスも、喜びに頬を染めながらケーニッヒを見つめた。 「日暮れまでには帰ること。……行ってこい、ルビーン」 どこか嬉しそうなドライに見送られ、フィデルとアインスは城を出た。 「……フィデル」 「はい、何でしょう」 「ありがとう。父上を、説得してくれて」 微笑を湛えたアインスが、雲の浮かぶ空を見上げて独り言のように呟く。 「ズィルバーがね。フィデルのこと、こっそり誉めてたんだよ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |