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1 プロローグ



あちこちで火の上がる宮殿。華やかな装飾は紅一色の業火に包まれ、家臣達の悲鳴がそこかしこに木霊した。
「国王様っ…!」
「……フィデルか」
王宮の最奥部、玉座に座した男が重苦しい声で名を呼んだ。フィデルと呼ばれた男はその前に跪いたまま、腰に提げた剣を固く握り締める。
「貴方様がお逃げにならないのならば…私めも、祖国と運命を共に致します」
「…そなたを失うのは惜しい。が、最早我がパルフェ国もこれまで…」
「いたぞ!」
扉を乱暴に開け、数人の兵士が王の間へ侵入する。振り向きざまに剣を抜いたフィデルは、臆することなく敵兵の中へ切り込んだ。
「国王様には指一本触れさせぬ!」
「迎え撃てっ!」
剣と剣が鈍い音を立ててぶつかり合う。一人、一人と敵兵の手から剣が薙ぎ払われていく。
「くっ…火が回ってきたぞ」
「一旦退くか…?」
敵兵士にざわめきが広がり始めた時、甲高い蹄の音が王の間に近づいた。
「下がれ、お前達」
扉の前に立つ馬の背を見るなり、兵士達は皆一様に目を見開いた。
「…!ケーニッヒ様!」
「国王様!何故ここへ!?」
煙を背に馬を進める、ケーニッヒと呼ばれた男。厳めしい軍服がガチャリと音を立てた。フィデルが、剣を構え直す。
「王は、…死んだか」
「っ!」
その言葉で玉座を振り返ったフィデルは、項垂れたまま動かない王の姿に、思わず剣を取り落とした。
「服毒とは。あくまで、敵の凶刃に倒れるのは避けたな」
「国王、様……!」
力無くその場で膝を折るフィデル。その姿を見て、ケーニッヒはにやりと薄笑いを浮かべた。
「……その男を捕らえろ」
二三の兵士が、命令に従いフィデルに迫る。後追いの自刃を図るも、床に落ちた剣を掴む前に兵士達に取り押さえられた。
火に包まれた柱が倒れ、玉座が視界から消える。
「ぐ、うっ…!放せ!っ、国王様!国王様ぁッ!」
捕縛されながら、燃え盛る焔へと叫ぶ。兵士の一人がその鳩尾を殴りつけると、刹那悶えた後、がくりと気を失った。
「…行くぞ」
馬が翻って王の間を出ると、兵士達はそれに続いた。

彼らが退いた後には、赤と黒に満ちた宮殿だけが残されていた。





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