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「……グラスが減っていないな」
不意にケーニッヒがそう指摘すると、フィデルは小さく呻いた。
「……これが、私の限界です」
「相変わらず、めっぽう弱い奴だ」
「…申し訳ございません」
「ボトルはそろそろ空きそうだが?」
これが空いたら寝る、と二人は予め決めていた。ケーニッヒは退屈そうにグラスを揺らし、ふとフィデルの髪へ手を伸ばした。
「……柔らかい。年を感じないな」
耳元で囁かれた甘言に、フィデルは戸惑いながらも礼を返した。そのまま指が項へ差し入れられ、朶を優しく甘噛みされる。フィデルの手の中で、ワインがぴちゃりと跳ねた。
「ケーニッヒ様…!」
「早くしろ」
短くそう言われ、ぐ…と口を噤む。ワインを僅かに口へ含んだフィデルは、耳元へ落とされる口付けに動揺を見せた。
転がしては飲み、転がしては飲み。二度繰り返しただけで、フィデルの顔はみるみる赤みを帯びていった。
「……ケーニッヒ様…」
浮かされた声は、ケーニッヒを煽るには十分であった。
「初めての夜を思えば、その程度の量は平気だろう」
「………」
「わかった。それなら」
躊躇うフィデルの襟首を押さえ、手からグラスを奪う。びくっと体を強ばらせ、唇にあてがわれたグラスを瞠目する。
勢い良く傾けられたワイングラスから流れ込むそれが、抗う間もなく喉の奥へ侵入する。言葉にならない苦しげな喘ぎが上がった。
「さあ。空になった」
ケーニッヒはそう言って、早くも肩で息をしているフィデルにわざとらしくグラスを見せつけた。





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あきゅろす。
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