39 「……何故、国王様は…」 地下へと続く幽玄な階段を下りる。フィデルの小さな独り言が、だだっ広い空間に消えていく。 牢番達は、フィデルの姿を見るとあからさまに嫌悪の表情を見せた。それは、パルフェとの戦争が終わったあの日、ここへ繋がれたフィデルを監視していた牢番と同じ人物であった。 「……国王様より、ズィルバー殿を殺めたという者との面会を命じられました」 その敵意を察し、用件を告げるフィデル。 「…どうぞ」 厳めしい鎧がガチャリと鳴る。脇に避けた牢番達に軽く一礼し、フィデルは歩みを進めた。 「あなたが」 鉄格子越しにフィデルがそっと声をかける。どこか茫然とした様子で、男はゆっくりと頷いた。 「お名前は…?」 「…ラッティヒ」 「ラッティヒさん。あなたは何故、このようなことを」 「……………」 「…ズィルバー殿に、何か怨恨の類があったのですか?」 「……………」 「お聞かせください。ズィルバー殿の命を、惜しんだ人もいるのです」 「………妻子に」 ぼそりと呟かれた声に、フィデルは目を剥いた。ラッティヒが、まっすぐフィデルを見つめる。 「妻子に、金はいきましたか」 「………え?」 そう尋ね、ラッティヒは口を閉ざした。 「………え、」 言葉を失うフィデル。 暫し、沈黙が訪れる。 「……………ああ……」 押し黙ったラッティヒを穴の空くほど見つめる。そうして絶望に顔を歪めたフィデルは、一礼をすると牢を離れた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |