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「やれやれ…とんだ災難だ」
会議を終え、廊下を行く重臣達。その四方山話を聞きながら、フィデルは独り口を噤んでいた。
「後継の儀も終わったという矢先に…これではケーニッヒ様もアインス王子も不安でしょう」
「我々で何とかせねば。ねえフィデル殿」
「っ、…は…はあ」
「調査、しっかり頼みますぞ」
「くれぐれも公正に」
ファルベ達の言葉に、曖昧に頷く。
彼らの背中が見えなくなった後も、フィデルは廊下を茫然と眺めていた。



「フィデル」
背後から近づく足音と声に、漸く我に返るフィデル。
「…アインス王子?」
しかめ面のまま、フィデルの側に歩み寄るアインス。
「ズィルバーは、どうして殺されたの」
その言葉に、はっと目を剥くフィデル。アインスの声は僅かに震えていた。
「アインス王子……」
「お前が調べるんだよな、それ」
「……ええ」
「…絶対に、犯人を見つけて」
「……はい」
父親譲りの紅い瞳を揺らし、アインスはぎゅっと眉を狭めた。それから何かを言おうと口を開きかけ、小さく唇を噛むと踵を返した。
「……アインス王子、」
「ズィルバー殿と大変仲が良かったのですよ」
「えっ?」
振り返った先には、悲しげに微笑するグリューネ。いつの間にか引き返してきたのか、どうやら二人の話を聞いていたらしかった。
「アインス王子は、ズィルバー殿を好いていたのでしょう。だから、今回のことはとても悲しかったのだと思います」
「………」
「フィデル殿。どうか、事件の真実をアインス王子に」
「……ええ。もちろん」
良かった、と微笑むと、グリューネは再び廊下の奥へと消えていった。





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あきゅろす。
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