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「母上を……?」
「気にするのはそこだけか」
ケーニッヒの声色に、フィデルは思わず口を閉じた。重い溜め息を吐き出し、グラスを机に置くケーニッヒ。
「母は……いや、あの女は生かすに値しない。そう判断したから殺した…王位一つを守る為にだ。くだらぬ殺生だ」
「ケーニッヒ様」
「私を立てようとしたからだ。第一王子でありながら、王位をより賢い弟に譲ろうとした、私を……。王を欺き家臣を誑かし、己の夫と息子を殺め、私を傀儡として己が権力を得ようとした。それがどうして生かしておけよう」
「ケーニッヒ様……」
「お前ならどうした、フィデル」
そう尋ね、睨むように見つめるケーニッヒ。フィデルは暫し黙り込み、ゆっくりと口を開いた。
「…せめて、追放に留めることは出来なかったのですか」
「………それだから、パルフェは滅びたのだ」
パッと顔を上げるフィデル。憎しみが、菫色の瞳を塗り潰す。
「あまりに甘い。臣下には、民には、適切な恐怖を与えねばならない」
「それは誤りです、ケーニッヒ様…!」
「誤り?結果はどうだ。お前の祖国は」
「パルフェは滅びてなどいない!民の信があるうちは!我々の心はまだ」
「黙れ!黙れ黙れっ!その絵空事は聞き飽きた!」
立ち上がった拍子に、ガシャン、と激しい音を立て、床を叩いたグラスが飛び散る。
「まだ解らないか!貴様の信じる理想の政など、脆弱な幻想に過ぎないと!王城という欲の前では、貴様の謳う誠実さが無力だということを!」
「……私は、それでも民を裏切らない…!」
ケーニッヒは肩で息をしながら、悔しさに歯噛みするフィデルを恐ろしいものを見るように見つめた。
「………その忠義は、どこから来るのだ…?」
「…今の国王様にお話ししたところで、ご理解頂けるとは思えません」
「これは命令だ。答えろ」
「………」
低い声でそう尋ねたケーニッヒに物怖じせず、フィデルはただ黙って王を睨み返した。





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あきゅろす。
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