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22 後継の儀



ちょうど一週間後に、カルテの次期国王を決める後継の儀が迫っていた。
心なしか落ち着きのない城内で、フィデルは一人黙々と、そして淡々と政務をこなしていた。
「………ケーニッヒ様」
「…なんだ」
国王の執務室で、ケーニッヒはその声に苛立ちながら返した。
「こちらの文書ですが、数ヶ所に誤りが見受けられます。お手直しを」
「お前がやっておけ」
「…これは、国王様の筆跡でなければならない文書です」
「…………、わかった」
フィデルから、引ったくるように文書を受け取るケーニッヒ。
「……ケーニッヒ様?」
「…………」
フィデルの言わんとしていることを悟り、ばつが悪そうに眉を顰める。
「…どうなさいました」
「……もうじき、後継の儀だ」
「ええ…それが、どうか」
「…………私は、あれが嫌いだ」
くしゃ、と髪を掻き乱す。ケーニッヒの表情は、苦虫を噛み潰したようであった。
「……しかし、国にとっては大切な政です」
「知っている。それから、家臣達にとってもな」
「……?」
「この日に誰を推すかで、以降の城仕えが大きく変わるのだ。未来の王に気に入られるか、王となるべき人間を信じぬ輩と疎まれるか」
「………アインス王子が王位を継ぐのでは?」
「前にお前は、私が王位やその権力に興味がないのかと尋ねたな」
ええ、と頷いたフィデル。ケーニッヒは悲しげに目を細め、声を低くした。
「私は王として人間性を失うくらいならば、平凡な生を望む。……王位を巡って兄弟、近親、そして城の人間同士が殺し合うならば」
「………ケーニッヒ様、」
「実際にあったことだ」
水の入ったグラスを、乾いた唇に押し当てる。
「私の弟を殺したのは、私の家臣だ。私の父を殺したのも、私の家臣……そして、私の母を殺したのは私自身だ」





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あきゅろす。
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