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「運命の、意思」
「……城の方々には、信仰心があまりないとお聞きしたことがあります。私の話は、少し可笑しなことに聞こえるかもしれません」
ファルベは、ぽつぽつと、しかし確信を持ったような声で語り始めた。
「私の生まれた地は、信仰心の強い人ばかりでした。神というものに対し敬虔であれ、と常日頃から言われるような。そして、すべての物事には運命の、神の意思があると。……私がここにいることも、そしてこれから起こることも。全ては、私の与ることの出来ぬ、為るべくして為った、運命の意思だと」
「……その、運命というのは」
「最も簡単に、そして不信心な言い方をすれば、“どうしようもないこと”です。天より齎された災、人の起こす禍。あるいは、幸福や恩寵もまた運命の意思でしょう。たとえば幸福を望まない者に対しても、運命が選んだのであればそれは訪れるのですから」
「……諦め、ということだろうか?」
恐る恐る尋ねる。ズィルバーは想像の限りを尽くして言葉を選んだつもりであったが、口に出した途端それはあまりに陳腐であると覚った。
思っていた通り、ファルベはほんのりと難色を示した。
「…………それは、近いようで、遠い言葉です」
「……難しいな」
「……私とて、正しいことがすべて解っているとは思いません。それでも、」
ファルベが微かに拳を握った。ズィルバーはそれを、見逃さなかった。
「運命は受け容れるべきもの。ただそこに存在する、私達にはどうしようもないことなのです」
思考の糸は断ち切られた。ズィルバーは空っぽの頭で一つ頷くと、落ち着いた声で「わかった」とだけ返した。





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あきゅろす。
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