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城に戻ったズィルバーが、ファルベの姿を探す。部屋を訪ねたが不在らしく、仕方なしに廊下を当て所なく歩いていると。
「……ん?」
誰かの怒声と、バサアッと紙束の散る音。角を曲がればそこには、探していた姿があった。
「こんなものをケーニッヒ様にお見せできるか。今すぐ作り直せ」
厳しく尖った声は、顔を見ずともゴルトのものだと分かった。床に散らばった紙を見ながら、ズィルバーはゴルトとファルベの間に割り込んだ。
「どうした、一体……」
「ズィルバー。邪魔立てはしてくれるな」
「ゴルト、落ち着け。状況が分からなければ邪魔も何もないだろう」
「……ケーニッヒ様にお渡しする書類を持って行く途中だと言うから、見てやっていた。……ひどい有り様だ」
足元の一枚を拾い上げ、ズィルバーは不愉快に顔を歪めた。
「……ああ。彼は、ケーニッヒ様ではなくまず私に見せようと思って持っていたのだろう。以前彼に頼んだ、本来なら私の作る文書だ。……こんな難しいものを、一度で」
「国王様のお墨付きの能力を計っただけだ。……所詮は刑吏、この程度だったがな」
そう言い捨てたゴルトは、振り向きもせずに二人の元を離れていった。ファルベが散乱した紙束を拾い始めると、ズィルバーもそれを手伝い。
「……気にするなというのは、難しいかもしれないが。あいつは少し、攻撃的なところがあるんだ……あまり、思い詰めないでくれ」
「はい」
抑揚のない返事に、笑みが引き攣るのが分かった。集め終わってから、何枚かを眺めていると。不意に襲った寒気に、ズィルバーは思わず文字の列を凝視していた。
「…………あー、ところでこれは、……右手で書いたのかね?」
突拍子もない問いに、紙を拾い終わったらしいファルベがズィルバーへ顔を向けた。
「え?……ええ。そうです」
「…………」
「ヴォルフ殿に、右の手でも書けるようになりなさい、とお教えいただきました」
「……では、君はこの間まで……」
最後まで言いかけて、ズィルバーは言葉を止めた。ファルベから紙の束を受け取り、「見ておくよ」とだけ答えて踵を返した。
(あの子には、利き手を変えた方がいいと教えたっきり会っていないからな。今度来る時までに、どれほど直ったか見なければ)
苦笑いを浮かべてそう語るヴォルフの言葉が、恐怖と共に脳裏に蘇った。





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あきゅろす。
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