[携帯モード] [URL送信]
59



「失礼致します、ヴォルフ殿」
パラパラと小雨の降る中、ズィルバーはひとりロルベーアへと訪れていた。
「ズィルバーか。……お前が一人で来るとは珍しい」
ズィルバーを招き入れたヴォルフが、待ちかねていたように椅子を勧める。「温かいミルクを」と付き人に告げてから、自らもその対面に座った。
「この頃、気温も下がっているからな。ブルートの様子はどうだ?最近はファルベもなぜか来なくなってしまったから、城のこともあまり……」
「そのことで、少々お話が」
「……?」
雨に濡れたせいではないズィルバーの蒼い表情に、ヴォルフは刹那、目を丸くした。



数日のことをズィルバーが話す間。ヴォルフは、どこか諦念の滲んだ表情で、時おり相槌を打つのみであった。
「この一件から、私は彼に疑問を。……恐怖にも似た疑問を、抱くようになりました」
「……ある程度までは、予想の出来たことではあったが」
ミルクの薄い膜をぼんやりと眺めながら。ヴォルフは、重い溜め息を一つ吐き出した。
「お前もそうだろう、ズィルバー。彼の過去は、そして未来は、私達が想像している以上に過酷かもしれない。そう、思わんかね」
「……ええ。その上で、私はどうするべきなのか、それが見えかねるところです」
「もう、聞いてしまうしかないだろう。彼自身に、どんな道を望むかを」
「……少々、残酷な話では?」
「何も出来なかった私達の、未来へのせめてもの償いだ。……ズィルバー、お前にばかり重荷を負わせるのは忍びない。私が、彼に聞いてみても構わぬよ」
「いえ、これは、我々の至らぬところ……。ヴォルフ殿は、これからの未来が快方へ向かうことを、どうぞ祈っていてください」





[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!