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ケーニッヒがじっと見つめる子犬が、不意にその足元へ体をすり寄せた。屈み込んで喉元を撫で、やんわりと首根を掴んだ。
「簡単に、命を奪ってしまうんだ。僕は、ただ、この国を治める王であるというだけで。……ただ、ケーニッヒとして生まれただけで」
くしゃりと顔が歪む。ケーニッヒは子犬を抱きしめながら、その小さな肩を震わせた。
くうん、と、甘やかな鳴き声が返ってくる。
「…………数多ある拷問の方法の中には、動物を使ったものがあります」
子犬の柔らかな毛に埋めるように伏せていた顔を、ケーニッヒが上げると。ファルベは、その不安に満ちた表情をただ、見つめ返した。
「たとえば、こんなものが。……罪人を仰向けに寝かせ、その腹の上に鼠を乗せます。その上から小さな鍋で蓋をし、それを熱していきます。熱さのあまり鼠は逃げ場を求めますが、鍋は固くて食い破れない。しかし、足元には柔らかい人の肉体があります。……もう、お分かりでしょう」
「…………」
「ケーニッヒ様。この拷問において、贄たる鼠に罪はあるのでしょうか。本人の意図せぬ運命の先で、生きようと必死にもがく者を、誰が咎められるでしょうか。その時、彼らが恨むのは果たして、罪人なのでしょうか。それとも、拷問人なのでしょうか。或いは、罪を裁いた者なのでしょうか」
「…………」
「犬や猫などは人間に比べて、考える力を持ちません。それ故に、己の身に与えられた運命をただ従順に受け入れます。生を奪う危機があるなら、ただ危機に抗って生きようとするだけです。その結果、生きていたとしても、死んだとしても、それは彼らの運命そのものなのです。運命に従順な彼らは、誰のことも恨みません」
冷たい秋風が刹那、二人の間を抜ける。いつの間にかケーニッヒの腕から降りていた子犬は、ふるり、と一つ身震いをした。
「僕らも結局、運命の贄だってことか」
「……ケーニッヒ様。あなた様は、仕えるべき私の王です。どうぞ、この誓いをお忘れなきよう」





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