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20



幾度目かの夜伽の命に、フィデルは相変わらず曇った気分で廊下を歩いた。
「………」
「おや、フィデル殿。浮かない顔ですな」
ケーニッヒの寝室の前で待っていたブラウが、やや皮肉げにそう訊ねる。
「…いえ」
「ケーニッヒ様とは、相性が悪いのですか」
「……私が、もう、年ですので」
「なるほど。…まあ、ご無理はなさらず。ケーニッヒ様に進言してみるのも」
「命令、ですから」
「……そうでしたな。では、失礼」
フィデルの身辺を確認したブラウは、一通り確かめ終えるとその肩を叩いた。
「まあ、せいぜい頑張ってくだされ」



「失礼します、ケーニッヒ様」
寝具に座していたケーニッヒは、無言のままフィデルを一瞥する。
その傍らまで歩み寄りフィデルが一礼をした刹那、ケーニッヒは彼の腕を半ば強引に引いた。
「っ、!」
寝台に叩きつけられ、顔を歪めるフィデル。そこに覆い被さったまま、ケーニッヒは声を低くした。
「お前の、仕えるものは何だ」
「………お望み通りに、お答えするべきですか」
その言葉に目を剥いたケーニッヒは、虚しさと悔しさに、ぎりと歯噛みをした。
「……何故、パルフェに拘る」
「私の、父祖の地だからです。返すべき恩義があるからです」
「亡国でもか」
「…民が、生きている限り」
真っ直ぐ己を捉える目、ケーニッヒは微かに目眩を覚えた。
「殺せば、お前が私に仕える理由がなくなる」
「はい」
「………っ、ああ!」
ケーニッヒの両手が、衝動的に首を締め上げる。苦しさに跳ねる体を制し、フィデルは歯を食いしばった。
「何故お前はあの国に生まれた!その忠義も、この小さな体も、瞳の色も顔立ちさえも、何故全てがパルフェのものなのだ!」
酸欠でフィデルの体が痙攣し始めると、我に返ったケーニッヒはその手を緩めた。酸素を求め喘ぐフィデルには、ケーニッヒの憎しみに満ちた目が向けられていた。





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