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「国王様に命を賜り、城に居を戴いた際は、身に余る栄誉に対し少々懐疑的なところもありました。……ですが、これもあなた様が定めた私の運命。……ケーニッヒ様、あなた様にお仕えし、我が身の限り尽くすことこそが私の未来の全てなのでしょう。なればこそ、私はその命を全うし、この魂が……そしてこの国が滅ぶまで。ケーニッヒ様の忠臣たるファルベであることを誓います」
膝をついたまま、そう謳いあげるファルベ。顔を上げても、ケーニッヒの疑い深い表情は変わらなかった。
「……それで、終わりか?」
「え、…」
「まだ、本当は言いたいことがあるんじゃないのか。たとえば、勝手に城に登らせた僕に対する、恨み、とか」
そこまで言って、ケーニッヒの表情が空よりも曇る。それを聞くと、ファルベは再びゆっくりと頭を下げた。
「誓って、国王様をお恨み申し上げたことはございません。……敢えて。あえて恨むべきものがあるならば、等しく私達を生かす、運命というものに他なりません」
「…………」
暫し沈黙が続く。下草の生えた土をじっと見ていると、不意に頭上でケーニッヒが動いた気配がした。
「ここには、こんな風にたくさんの動物が飼われてる」
ファルベが静かに顔を上げれば。ケーニッヒは傍らの子犬を抱き上げ、無邪気に尻尾を振る姿を見て険しい表情を浮かべた。
「……ここにいるのは、毒殺を防ぐために食餌を与える贄だ。こいつらは、そんなことを知らずにここで暮らしてる。前にも僕は、ここで兎を一匹、死なせてしまった」
地面に下ろされた子犬は、ケーニッヒの足元で愛らしい声で二つ鳴いた。
「……こいつらは、誓いを立ててもいないのに。ただ、僕らの都合で。僕の、我が儘で。こいつらは死ぬとき、いったい誰を恨むんだろう」





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あきゅろす。
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