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中庭の中心、噴水の縁に座り込んだケーニッヒは、庭で遊ぶ動物たちをぼんやりと眺めていた。
「…………」
雲の多い空は、秋の訪れを報せて。夏には城の中で最も明るいこの場所も、この数日間の雨と陰湿さを少しずつ吸い込んでいた。
「……ん……?」
不意に、それまで無邪気に遊んでいた動物たちの動きが変わった。ぱらぱらと向きを変え、一匹また一匹とどこかへ向かい始める。
「…………あ、っ」
その先には、この数日間、顔を合わせることのできなかった姿があった。
「……国王様。お休みのところ、失礼致します」
「……ファルベ」
「先日、書物の写本をしていて、とある記述を見つけました。……国王に仕える家臣は、晩餐の折に主へと、誓いの言葉を告げるものだと」
近づきながらそう言われて、冷や汗をかいたまま一つ頷くケーニッヒ。動物たちが、どこか心配そうに二人の様子を見守る。
「……ああ、あの。酒を飲んだ家臣達が、おべんちゃらを次々に浴びせてくる奴か」
「……城に登った直後の晩餐で行うべきとのことでしたが、浅学ゆえに存じ上げず。重ねての失礼を承知で、ケーニッヒ様に誓いを捧げたく思い、伺った次第にございます」
「なんで、いまさら」
「礼を尽くして忠誠を誓わなければ、私のような者は信頼するに値せぬだろうと。そもそも、このように遅れて誓いを宣うことが非礼では、ありますが」
跪いたまま静かに顔を上げたファルベ、その動かぬ表情を見て、ケーニッヒはそっと目を眇めた。
「……誓いの時のような、大げさな言い回しなんていらない。どんな思いで僕に仕えるのか、それだけを言ってみろ」
気丈に言い放った小さな拳が震えているのを見ながら。ファルベは一つ、深く頷いてみせた。





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あきゅろす。
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