[携帯モード] [URL送信]
54



「ケーニッヒ様。ご覧になりましたか?」
王の間に戻ると、ゴルトが不機嫌そうに口を開いた。
「あれが、不浄なる者の姿です。同胞であろうと無慈悲に殺める。悲しむことなく、ただ淡々と」
玉座に座したケーニッヒの顔色は、死人のそれのようであった。その様子を案じながら、ズィルバーがゴルトに苦々しい表情を向けた。
「仮にも許嫁であったというのなら、その処刑を顔色一つ変えず行うとは人間の所業ではありませんぞ。あの娘に赦しを請われようと、悪魔だ死神だと罵られようと、その手を緩めなかった。……まあ、拷問人としては一流なのでしょうがね」
「ゴルト。ケーニッヒ様は今、心が穏やかでないのだ。そういう話は」
「あのような者がこの国を治める城に居れば……慈悲無き政が、民を叛乱へと導くのです」
「彼はそんな人間ではない。血の通った、」
「ズィルバー。大切なことを忘れるな。不浄なる者を城に登らせることは、秩序の崩壊の始まりだ。……国王様。それをどうか、ご理解」
「考える、時間を、くれ」
二人の会話を遮り、ケーニッヒが玉座から立ち上がる。黙り込んだ二人は、ケーニッヒがゆっくりと部屋を後にするのを見送った。



その扉の前で、グリューネはただただ黙っていた。
拷問部屋から戻ってから、ファルベが部屋を出た痕跡はないようであった。それでも、鍵のかかっていない扉があまりに重い。
「…………」
こんなにも勇気と覚悟の要るのは、城に登る者を決める大会以来であった。
手にした食器がカタカタと音を立てる程に震え。目の前が白みそうな緊張感で、グリューネの横顔が蒼白になる。息を吸い込んだ。吐き出そうとして、苦しさを感じた。

為す術なくその場を後にしたグリューネの腕の中では、湯気の消えたハーブティーが揺れていた。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!