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大逆の刑の執行は、変わらず地下の拷問部屋で行われた。
至って無機質な作りの寝台、足の位置には大きな刃物。今までとは違う処刑の為の拷問とあり、より一層禍々しい様相を呈して。
その拷問とは、罰せられるその少女が息絶えるまでゆっくりと、足元から細かく体を刻んでいくというもの。ちょうど野菜を千切りにするかのように、壮絶な悲鳴を上げる人間の体が細切れになっていく。
助けを請う言葉はやがて醜い恨み節となり、とうとう言葉にならない奇声となり。苦痛と恐怖と憎悪に満ちた瞳は、最後まで執行人の姿をとらえていた。



ばらばらと床に飛び散った、人間だったものの肉片。腿まで失った少女が事切れたあと、その部屋に音を齎す者はなかった。
「…………」
全てを見届けたケーニッヒは、無言のまま部屋を後にした。それを追うように、ゴルトとズィルバーが地上階への階段を登る。
「…………」
残ったのは、グリューネとファルベだけであった。長い長い、沈黙が続いた。
グリューネが必死に言葉を探していると、不意にファルベが動き出した。据え付けの刃物から手を離し、息を引き取った少女の枕元へ近づく。
「……ごめんね、ヴァイス」
独り言のような声が零れる。
「……言えば、良かったね……舌を噛んでくれって……この処刑がとても苦しいのは、君も知っていると、思ってたから……轡を噛ませなかった理由を、分かってくれると、思ってたから……」
見開いた目を、左手でやさしく閉ざす。振り乱された長い黒髪を、指先でそっと梳く。
「大丈夫……だいじょうぶだよヴァイス、僕もきっとすぐに地獄へ落ちるから。少しだけ、先に行っててくれないか。ヴァイス、今度はきっと、きっと、ずっと一緒にいよう。……ごめんね、なにも出来なかった。なにもできなかったよ……でも、愛しているのは、本当だったんだ。どうか信じて」
赦しを請うように少女の手を握るファルベ。グリューネもまた、音を殺して部屋を後にした。
「……君の希望に、なりたかった……」

惨劇などはじめから無かったかのように、広い拷問部屋はただ、静かであった。





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あきゅろす。
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