50 「……け…怪我の状態は、どうだね」 気も漫ろなようすで、ズィルバーがそう尋ねた。ずきずきと痛むのを堪えどうにか頷いてみせる。 「そうか。……」 「……あの」 「君に、伝えねばならないことがある。先だて、国王様に刃を向けたあの少女を、処刑することになった」 一息にそう告げる。それからシンとした空気の中で恐る恐る顔を上げたズィルバーは、しかしそれを見て背筋の凍る思いがした。 「…………」 彼をじっと見つめるファルベの表情は、少しも変わっていなかった。 「……あの子は、君の…」 言いかけて、唾を飲み込む。これ以上の言葉は必要ないのだと覚った。 「………ゆっくり、傷を癒してくれ」 絞り出すようにそう言ったズィルバーは、震えてしまいそうな脚に力を込め、部屋を後にした。 部屋の外で扉に寄りかかっていたグリューネが、出てきたズィルバーを不安げに見上げる。 「……ズィルバーさん」 「グリューネ、……悪いが少し、休ませてくれないか。具合が悪いんだ」 そう言って、蒼い顔のズィルバーが急ぎ足に去って行き。その姿を見送った後、グリューネは意を決して部屋の中へと入った。 ベッドの上でじっとしたまま動かないファルベを認めると、グリューネは手の中の物を強く握り締め。 「……ファルベ、さん」 少しの間を空けて、ファルベがゆっくりと顔を向けた。掠れたような声で、なんでしょう、と返される。 「これ……落ちてたって、ズィルバーさんが」 静かに手を伸ばして受け取る。その時初めて、グリューネは彼の唇に血が滲んでいることに気付いた。 手の中には木製の指輪。包の中にある物と同じ、小さな手彫りのもの。 「…………」 グリューネが次の言葉を発する前に、ファルベは部屋を飛び出していた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |