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「…国王さま。大丈夫ですか…」
声を潜めながら男を案じるグリューネ。男は一つ頷くと、扉へ目を向けた。
「……ああ…なんとか。……あの、少年は一体…」
「……わかりません。わたしも、はじめて会いました…」
それからグリューネは、ファルベの言葉通り息を潜めてその帰りを待った。



城の裏口、一隻のボートを前に立ち止まるファルベ。
「……よし…」
堀に浮かぶボートに血を垂らし、ひっくり返してオールを投げ捨てる。転覆したように見せ、ファルベ自身も掘に飛び込む。世辞にも綺麗な水とは言えないが、迷う時間はなかった。
少し離れた場所まで泳ぎ、塀の陰に隠れて息を殺す。
数分後、二人分の声が聞こえて来る。堀の中から姿は見えなかったが、会話は確かに聞こえた。
「逃がしたか…!?」
「いや、あの毒が回れば脚は麻痺するはずだ。たぶん、この堀に沈んで…」
「…確かめられないが、…」
「仕事は済んだようだな。…後は、……」
会話が遠ざかっていく。相手が手練れの暗殺者でなかったことを安堵し、ファルベは少し間をおいて掘から這い上がった。



服の袖を破り、手首の傷を塞ぐ。体も乾かぬままに、滴る水だけを落としたファルベは二人の待つ部屋へと急いだ。
扉を叩き、中のグリューネへ声をかける。ゆっくりと開いた扉から、恐々グリューネが顔を出した。
「…さっきの、」
「あの方は無事か」
「は…はい、…」
部屋へ入り、横たわる男へ声をかける。男は目を開け、ファルベに短く礼を告げた。
「ありがとう。…君は、…」
「私は、ファルベと申します。……国王様と知らず、ご無礼を致しました」





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あきゅろす。
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